研究課題/領域番号 |
16KT0011
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研究機関 | 同志社女子大学 |
研究代表者 |
杉原 百合子 同志社女子大学, 看護学部, 准教授 (90555179)
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研究分担者 |
岩崎 陽子 嵯峨美術短期大学, その他部局等, 准教授 (70424992)
小早川 達 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 研究グループ長 (70357010)
坂田 岳彦 嵯峨美術短期大学, その他部局等, 教授 (70225796)
松本 泰章 嵯峨美術大学, 芸術学部, 教授 (00331702)
真板 昭夫 嵯峨美術大学, 芸術学部, 特任教授 (80340537)
小林 剛史 文京学院大学, 人間学部, 教授 (30334022)
山本 晃輔 大阪産業大学, 国際学部, 准教授 (60554079)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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キーワード | なつかしさ / 匂い / 嗅覚 / 高齢者 / アートデザイン / 居場所作り |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、「なつかしい匂い」を使った嗅覚への刺激と「アート」を融合させたプログラムを開発し、認知症の人にとって安心できる居場所作りを目指すものである。今年度までは研究の基礎期間とし、研究メンバーを心理学Gと、創造・看護学Gの2グループに分け、それぞれの分担役割に基づいた研究を実施した。 今年度の活動として、心理学Gは、日常場面での接触頻度が相対的に高い「食」に関わる嗅覚刺激に着目し、当該嗅覚刺激によって自伝的記憶を想起するまでの時間(想起時間)と自伝的記憶の現在からの時間的距離(1年以内/3年以上)の関係性について、まずは若齢者を対象として検討した。その結果、3年以上前の記憶の想起時間は、食に関わる嗅覚刺激を用いた場合、従来の研究で報告されてきた想起時間よりも長いことが示唆された。また、高齢者を対象として「なつかしい匂い」の主観的評価と様々な個人的変数(認知能力、嗅覚同定能力、「なつかしい」記憶の想起、イメージ能力、主観的幸福感等)との関連性を調査によって検討した。その結果、匂いの「なつかしさ」に関する主観的評価といくつかの変数間には関連性が確認された。さらに、高齢者に特徴的な「なつかしい」匂いが複数抽出された。 一方、創造・看護学Gは昨年度に岩手県二戸市在住の高齢者を対象に実施した「なつかしい匂い」に関する聞き取り調査から見出した、「なつかしい」感情を想起する「匂いの構造」についての仮説に基づき、7月に京都、10月にパリで展覧会を開催し、匂いのアート作品鑑賞による効果測定を実施した。鑑賞前後の気分の変化と記憶想起の効果を測定したところ、京都では、作品鑑賞による気分向上効果への顕著な影響は認められなかった。一方でパリでは、記憶の喚起程度が高く、ネガティブな感情の一部が有意に低下していた。この結果を次年度京都とスウェーデンで開催予定の展覧会の制作活動に活かす予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の計画として、心理学Gは、「食」に関わる嗅覚手がかりによる自伝的記憶想起の新旧とその想起時間の関係の検討(心理1)、嗅覚手がかりによって喚起される自伝的記憶の特徴と嗅覚同定能力、主観的幸福感との関係性について若年者と高齢者の差違という観点からの検討(心理2)、嗅覚的手がかりによる無意図的な自伝的記憶想起における加齢の効果についての検討(心理3)を行った。「心理1」は実験的検討であり、まずは若齢者を対象に検討を行った結果、「食」に関連する匂いは、古い自伝的記憶を想起する際に、従来のプルースト現象で確認されている現象とは対照的な結果が確認された。「心理2」および「心理3」においては、匂いによる自伝的想起における高齢者の特徴、特に、高齢者が若齢者に比して相対的にポジティブな主観的反応を報告する指標が着実に蓄積されている。これらの結果の蓄積は、直接的に本研究の平成30年度の活動につながるものである。 一方、創造・看護学Gについては、「なつかしい」感情を想起する「匂いの構造」に基づいたアート制作および展覧会の開催、さらに展覧会において嗅覚を芸術的構成要素として取り入れた「かおりアート」による接触効果測定を計画していた。計画通り、京都とパリの2か所において展覧会および作品鑑賞による効果測定を実施し、その結果を、日本味と匂学会第51回大会にて報告し、現在学会誌に報文として投稿中である。また、福祉先進国であるスウェーデンの福祉施設およびアーティストとの、懐かしい匂いと作品制作をめぐる研究提携の構築を行った。次年度は京都とスウェーデンでの展覧会開催に向けての調整・準備は順調な進捗状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はこれまでの各Gで独自に行ってきた調査・研究結果の統合段階として、「懐かしい匂い」を用いた嗅覚刺激と「アート」の融合を見据えた活動を目指す。心理Gが蓄積してきた、若齢者との比較によって詳らかにされた高齢者の匂いによる自伝的想起の特徴、高齢者にとってのなつかしい匂いに関する情報の結果を、創造・看護学Gによるアート作品に活かしていく予定である。また、展覧会でのアート作品鑑賞後の効果測定についても、協働して進めていく予定とする。 また、展覧会では比較的若い世代の鑑賞者が多く含まれることが予想されるため、高齢者を対象として、アート作品鑑賞の調査も別途実施する予定とする。これについては、岩手県二戸市あるいは京都市で実施予定である。 一方、心理Gは、さらに実験的検討および調査検討を進め、高齢者の匂いによる自伝的記憶想起の特徴の不足データの蓄積を目指す予定である。特に、大規模データを用いた、信頼性の高い当該記憶想起場面における高齢者の特徴を抽出することは、アートとの融合に鑑みても重要である。以上より、平成30年度も、高齢者を対象とした「なつかしい匂い」に関する実験的検討およびWEB調査を実施する。実験的検討では、調査1では、「なつかしい匂い」を全国の高齢参加者を対象に収集し、その構造を検討する。調査2では、そこでの上位の項目を対象に、ノスタルジー感情喚起度や熟知度等の認知的特性の評価を高齢者に求め、その関連性を検討することを通して、「なつかしい匂い」の意味的構造を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、海外での学会発表を計画していたが、調査期間が遅い時期となったため、実施できなかった。そのための旅費及び学会参加費が残金となったため、次年度に使用する。また、次年度の計画に挙げていて高齢者へのアート作品鑑賞前後の調査費としても使用予定とする。 一方、心理Gは概ね予定通りの進捗であったが、一部の検討で高齢者の募集に時間を要し、平成30年度に検討が持ち越しになった。これについて平成30年度に実験的検討およびWEB調査を行うものとする。
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