研究課題
細胞の老化は、加齢に伴う様々な疾患病態に密接に関わっており、高齢者の生活の質に大きな影響を与えると考えられる。近年、細胞の老化のメカニズムとして外因的・内因的にもたらされる酸化ストレスや、ミトコンドリアの機能不全などが関わることが分かってきたが、環境因子が老化に及ぼす影響や詳細な老化の分子機構については不明な点が多く残されている。本研究では、親電子シグナルによるミトコンドリア新生制御と、細胞老化に関わる環境親電子物質によるシグナル撹乱作用に着目し、細胞老化メカニズムの解明と、その知見をもとにした生体の老化を抑制する薬剤および老化予防法の開発を目指す。我々は、心筋梗塞や血行力学的圧負荷により心臓組織中に8-ニトロ-cGMPなどの内因性親電子物質が生成されること、親電子物質によるGTP結合タンパク質のシステイン修飾が心筋細胞の早期老化を誘導することを明らかにしてきた(Nature Chem. Biol., 2012)。興味深いことに、心臓に負荷がかかった際の抵抗力もまた環境親電子物質の曝露状態に依存しており、ミトコンドリア分裂促進Gタンパク質Drp1のC末端に存在するシステインの親電子修飾によりミトコンドリアが過分裂状態になることが、その後の物理的負荷に対する抵抗力を低下させる原因となることを新たに見出した。さらに、酸化ストレスの新規制御因子としてシステインパースルフィドなどの活性イオウ分子種を同定した(PNAS,2014)が、Drp1の親電子標的となるシステインSH基もまたパースルフィドを形成することで親電子物質に対する反応(修飾)を可逆的に制御する自己防御機構を有することも明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
細胞老化の原因となるミトコンドリア分裂誘導の分子機構をレドックスシグナルの視点から解明し、論文(2本)投稿している。また、これを選択的に抑制できる既承認薬も見出しており、臨床研究も展開できている。
親電子物質の内因性消去物質であるシステインパースルフィドを生成する酵素を過剰発現または欠損させたマウスを作出しているが、その管理維持経費が当該予算では追いつかない。そのため、別予算の獲得に踏み込む必要がある。
1年目に予定していた遺伝子改変マウスの作出は予定通り実施されたものの、部門内動物実験室の温度制御装置の修理が遅れたため、最もお金のかかるマウスの凍結胚の作成およびクリーンアップと当該施設への受け入れ作業の実施が昨年度内に間に合わなかった。そのため、次年度早々にマウスのクリーンアップ・胚操作・飼育繁殖の経費を執行する。
導入した遺伝子改変マウスの導入(クリーンアップ)、凍結胚の作成、繁殖を開始し、循環代謝機能測定、組織形態観察、単離心筋細胞を用いたイメージング解析を実施する。一方で、活性イオウ生成酵素CARS2やその代謝酵素(Sqr, Adh5など)の野生型および変異体をコードした心筋特異的プロモータをもつアデノ随伴ウィルスを上記マウスに投与することで、心筋における活性イオウ動態と心筋老化との関係を明らかにする。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 4件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 9件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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