研究課題/領域番号 |
16KT0015
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
久保 英夫 北海道大学, 理学研究院, 教授 (50283346)
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研究分担者 |
細田 耕 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (10252610)
セッテパネーラ シモーナ 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (40721890)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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キーワード | 発達ロボティクス / 進化経済学 / 力学系 |
研究実績の概要 |
平成28年11月に研究分担者2名を含む関係する研究者を招聘し、札幌で合宿形式の勉強会を行い、本研究課題の研究目的や研究の進め方について共通認識を持つことができた。特に、連携研究者の西部氏が提唱するルール生態系ダイナミクスに関する数学的背景を理解し、その応用の可能性について議論を深めた。また、我々の目指すロボットアームの作成に欠かせないボディ・イメージについて、ヒトがそれをどのように獲得するのか、更に、それをどのように定着させているのかに関して検討を行った。具体的には、筋骨格などの身体的な拘束条件のもとで、ボディ・イメージについての情報が如何に自己組織化され、それがどのように学習されるのかを、例えば、自己組織化マップを用いて定式化する可能性について議論した。 また、平成28年12月に、研究代表者が研究分担者の細田の研究室を訪問し、試作されているロボットアームを実際に確認した。既に、筋骨格を模倣するために使用されるチューブの物性やロボットアームが動作する際にチューブにかかる張力などを計測するための装置が着々と構築されている。従って、これらの装置をベースとして感覚受容器を確立し、計測データをロボットアームの動作へとフィードバックするシステムに繋げていくことは十分に可能な段階にある。 ロボットアームの制作自身も興味ある課題であるが、数理科学的な関心としては、拘束条件のもとで生じる自己組織化を如何に定式化するか、という点である。これについては、例えば、情報量がある制約を満たした上で相互情報量の最大化を実現する状況を具体的に検討することによって解決の糸口が見いだせそうな段階に達している。あるいは、自己組織化マップの指導原理として、主成分分析の方法を用いることができないか、という可能性の検討も始めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題のように諸分野の研究者が共同して研究を進める場合には、同じ概念が異なる専門用語で表現されることや、背景となる基礎知識に大きな差があることなどから、そうした分野間の壁を丁寧に取り除いていく必要がある。その意味で、上述したような合宿形式の勉強会を行い、問題意識の共有を図ったことには大きな意味があり、今後の研究の進展を促す礎になったと言える。 我々は、必要に応じて機能分化し、状況に応じて即時適応するシステムの数理構造の探求を目指している。このようなシステムを内包するロボットアームを構築するためには、ヒトの筋骨格にみられるような物理的な拘束に加えて、ヒトと同様に感覚受容器からの情報をフィードバックすることによる制御を行わなければいけない。細田研究室では、これらの条件を満たすようなロボットアームの試作が着々と行われており、その試作ロボットアームの動作から我々が求める数理構造を抽出できる可能性が十分にある。 また、拘束条件をある物理量に対する制約として捉えようとする試みも行っている。その制約が何らかの機能を生み出すことが想定されており、結果的に、効率の良い制御が実現していると考えられる。ルール生態系ダイナミクスにおける制御は、評価関数がメタルールを通して評価されることで、評価関数自身が時間発展していくことにより実現されているが、この枠組みを我々の問題に落とし込むとすれば、評価関数の時間発展は、拘束条件からの制約を受けることにより誘起されることになるだろうと予想している。 一方、同一の状況のもとで一定の反応を引き起こすことは動作の効率化にとって不可欠であり、学習理論の枠組みのなかで定式化されるべきである。一つの可能性として、自己組織化マップの活用が考えられるが、そもそも自己組織化マップの指導原理として、主成分分析の方法を適用することも検討している。
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今後の研究の推進方策 |
まず、5月中旬に京都大学数理解析研究所において勉強会を行う。そこで、各研究者の研究の進展について情報を共有し、今後、解決すべき課題を整理する。加えて、機械学習、特にディープラーニングに関するチュートリアル的な講演を用意し、機械学習についての理解を深めることにより、同一の状況のもとで一定の反応がロボットアームに引き起こされるようになるメカニズムを明らかにするための一助とする。同時に、ここまでの研究成果を論文にまとめる作業も進めつつ、6月下旬に北海道大学内で開催される適応ロボティクスに関する学会に参加し、関連する研究の情報を積極的に収集する予定である。 また、目的意識を更に明確にするために、11月上旬に合宿形式の勉強会を再び札幌で開催する。この機会に複数の振動型力学系を結合する際に導入するランダムネス自身が時間発展するようなモデルについても考察する。適切なメタルールを設定することでルール生態系ダイナミクスのアナロジーが展開できることを示す。また、制御機構における普遍性を数学的に記述するための一つの方法として、離散モース理論によってエネルギ―地形を縮約することを考えている。すなわち、学習によって即時的な適応が可能になる様を、最適なパスを効率よく見出すことに対応させて記述することを試みる。 その一方で、細田研究室でのフィードバック機構を有するロボットアームの製作にも精力的に取り組む。試作したロボットアームを用いて、即時適応行動を生成するために必要となる基本的反射のデータを集積する。例えば、ロボットアームにドア開けを試行させ、エネルギー、速度、張力などの様々なインデックスに関する変分を調べ上げ、それを基にメタルールに対応するものを推定する。このようにして、トップダウン型ではなくボトムアップ的な動作原理を確立することにより、人間の行動様式の本質を突くような普遍的数理モデルの構築を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた出張が学内業務により中止になったこと、招聘を予定していた研究者が都合により来札できなかったこと、雇用を予定していた研究員の雇用期間を短縮する必要に迫られたこと、及び、ロボットアーム作成のために計上していた予算について、その設計方針を定めるのに時間を要したため、前年度内での執行に間に合わなかったことが主な理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は4月から予算を執行できるため、既に出張や研究集会の開催について計画的に予定しており、また、ロボットアーム作成のための消耗品の本格的な購入も必要となるため、予定通りの執行を見込んでいる。
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