研究課題/領域番号 |
16KT0017
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
林 正人 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 教授 (40342836)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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キーワード | 隠れマルコフ過程 / 同値性問題 |
研究実績の概要 |
前年までの研究では,隠れマルコフ過程に対する2段階法のよる推定方法を研究した.しかし,隠れマルコフ過程の場合,異なる確率遷移行列であっても同じ統計的振る舞いをする場合がある.すなわち,隠れ変数に関する確率遷移行列をパラメトライズした場合,統計的振る舞いに反映されないパラメータが存在する.このため,現実に現れる現象を適切に記述するには,現実の現象に現れるパラメータだけを議論する枠組みが必要である.この問題は隠れマルコフ過程を記述する確率遷移行列に関する同値性問題とよばれる. この問題は,その重要性に関わらず,その難解さのために,あまり研究されてこななった.伊藤・甘利・小林による結果があるのみであった.しかし,この先行研究では,2つの確率遷移行列の間の同値性関係を扱ったのみであり,確率遷移行列を記述するパラメータを微小変化させたとき,どの方向の変化が,現象の変化に現れないかについては議論していなかった.隠れマルコフ過程をパラメトライズするには,この問題が大変重要であり,どの方向の微小変化が現象に現れないか明らかにする必要がある. 今年度は,この問題を接空間上での同値性問題として定式化し,接空間のレベルでの同値性のための必要十分条件を明らかにした.これにより,どの方向のパラメータが現象の変化に現れないか判定可能となった.なお,隠れマルコフ過程には様々なモデルがあるが,本年度は隠れ変数から可視変数を与える過程が確率遷移行列で与えられるモデルについて研究した. その他,情報幾何学の手法を活用することで,量子系を含む関連する情報科学の様々なテーマに取り組み,様々な問題を解決した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,隠れマルコフ過程において,接空間上での同値性問題を解決した.この問題は,隠れマルコフ過程のパラメトライズにおいて中心的な問題であり,この問題を解決したことは,大きな進展である. さらに関連する情報科学の様々なテーマにおいても,情報幾何学の手法を活用することで多くの優れた成果を出すことができた.
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今後の研究の推進方策 |
隠れマルコフ過程には,様々なモデルがあり,今年度は隠れ変数から可視変数を与える過程が確率遷移行列で与えられる場合について研究した.しかし,隠れ変数から可視変数を与える過程が決定論的関数で与えられる設定も存在する.こちらのモデルも現実的であるので,このモデルについて,同値性問題を扱うことにする.また,ここで得られた成果の実装については,理化学研究所の革新知能統合研究センターの金森研究チームと連携することとする. さらに,情報幾何学の手法は大変幅広い応用範囲を持つので,隠れマルコフ過程に限定せず,様々な情報科学の問題に取り組むことで,その有効性を実証することとする.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は主に,隠れマルコフ過程における接空間上での同値性問題に取り組んだ.同値性問題は,応用面も考慮して議論する必要があるが,研究方針を途中で変更する必要が生じた.このための研究方法の決定が遅れてしまい,本年度中に研究を完了することが出来なった. さらに,情報幾何学の手法の応用においては適用範囲が広すぎるため,この方面の研究においても研究方針の変更があっため年度中の執行が出来なかった.
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