本年度は,昨年度に引き続き隠れマルコフ過程の脳磁気図検査(MEG)への応用について研究した.脳磁気図検査(MEG)とは脳内の電気的活動によって生じる人間の頭の外の磁場を計測する方法である.脳内の電気的活動である神経内の電流はマルコフ過程とみなすことはできるが,脳磁気図検査(MEG)によって直接計測できる磁場は,この電流を反映した確率過程であるため,隠れマルコフ過程に従うことになる.脳磁気図検査(MEG)の目的は,計測された磁場から,神経内の電流の振る舞いを推定することにある.本研究では,隠れマルコフ過程の手法を用いて,測定値から神経内の電流の事後分布を与えることにある.隠れ変数,可視変数が離散となる場合での隠れマルコフ過程においては,既存の forward-backward アルゴリズムの単純な適用により,隠れ変数の事後分布を与えることが可能となる.しかし,隠れ変数,可視変数が連続となる系では,この方法をそのまま適用することはできない.単純な方法としては,隠れ変数,可視変数を離散化して適用する方法が考えられるが,この方法で,アルゴリズムはうまく動作する程度の離散化では,離散化の度合いが荒すぎて使い物にならない.したがって,本研究では多段階に離散化する方法を考えた.すなわち,最初に最も荒いメッシュで離散化し,その離散化の下で, forward-backward アルゴリズムを適用する.次に,隠れ変数の推定値として得られた個々のメッシュだけを細分化するメッシュを考え,そのメッシュに対して,再度 forward-backward アルゴリズムを適用する.成果そのものは,ほぼ昨年度に得られていたが,その取りまとめが本年度にずれ込んだ.幸いこの成果は,統計学のお用分野のtop journal であるAnnals of Applied Statisticsに掲載となった. さらに,量子系の展開として,量子マルコフ過程についても研究した.
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