研究課題/領域番号 |
16KT0021
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
高橋 博樹 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (00467440)
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研究分担者 |
佐々田 槙子 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (00609042)
秋元 琢磨 東京理科大学, 理工学部物理学科, 准教授 (30454044)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2020-03-31
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キーワード | 異常拡散 / スケール極限 / 非一様双曲力学系 |
研究実績の概要 |
分担者の秋元 は異常拡散現象の理解に向けてこれまでに引き続き精力的に研究を進め、顕著な成果を挙げた。2016年度に本研究費を用いて日本に招聘した異常拡散現象の専門家であるRalf Metzler氏(University of Potsdam)らとの2編の共著論文を含む、複数の論文を査読付き国際学術雑誌に発表した。同じく分担者の佐々田は異常拡散現象とスケール極限の関連について顕著な成果を挙げ、複数の論文を査読付き国際学術雑誌に発表した。代表者の高橋は、可算マルコフシフトとよばれる非コンパクト空間上の力学系の大偏差原理を証明し、この結果をまとめた論文を査読付き国際学術雑誌に発表することができた。また、8月から9月にかけて3週間、カオス力学系研究の大家であるJames A. Yorke氏(University of Maryland)を訪問し、異常拡散現象などについて議論を重ねた。この間、Yorke氏とYorke氏の元で在外研究に従事している斉木吉隆氏(一橋大学)とともにheterogeneousなカオス力学系の極小モデルについて議論し、そのエルゴード性を証明することに成功した。本共同研究の成果をまとめた論文を近日中にしかるべき学術雑誌に投稿する予定である。 本研究費を用いて2019年3月に非双曲力学系の専門家であるPierre Berger氏(Universite Paris 13)を含む7名の研究者をフランスから招聘し、「Real and complex dynamics Henon’s maps」と題する国際研究集会を5日間に渡り慶應義塾大学で行った。講演数を絞り、非公式な議論に多くの時間を割く形式をとったにもかかわらず30名以上の参加があり、盛況であった。エノン写像などの非一様双曲的力学系と、異常拡散現象の関連についても議論が行われ、有意義な研究集会となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究分担者の秋元、佐々田は異常拡散現象に関する成果を論文という形で順調に挙げており、研究代表者の高橋は、研究分担者らとの議論を通じて異常拡散現象に対する理解を深めることができた。また可算マルコフシフトの大偏差原理の研究において、確率論の専門家である分担者の佐々田との集中的な議論がきわめて有効であった。これらから総合的に判断して、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
可算マルコフシフトや可算マルコフ連鎖といった非コンパクト性を持つモデルは、異常拡散を含む多様な現象を記述できる可能性を持つと考えられる。延長期間となる次年度は、前年度に高橋が得た可算マルコフシフトの大偏差原理を、可算マルコフ連鎖に拡張するための研究を行う。可算マルコフ連鎖では、非コンパクト閉集合を考慮しない弱い意味での大偏差原理が常に成立することはすでに知られている。従って、「測度の指数的緊密性」を証明することができれば、非コンパクト閉集合を扱うことができ、完全な大偏差原理を得ることができる。可算マルコフシフトでは「測度の指数的緊密性」を示すことに成功しており、この手法を可算マルコフ連鎖に拡張することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者が予定していた国外出張の一つを学務の多忙さのためやむを得ずキャンセルしたこと、3月に行った研究集会で招聘したフランス人研究者7名の航空運賃を負担する必要がなくなったことなどから経費に余裕が生じた。同時に、可算マルコフ連鎖の大偏差原理に関して研究代表者の高橋と研究分担者の佐々田の間で議論が続いており、成果を出すためにはもう少し時間が必要である。次年度使用額の大半は、高橋と佐々田が昨年から行っている議論を継続するために、佐々田の長期滞在先であるニューヨークへの旅費に用いる。
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