研究課題/領域番号 |
16KT0026
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
入江 光輝 宮崎大学, 工学部, 教授 (50451688)
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研究分担者 |
岩崎 えり奈 上智大学, 外国語学部, 教授 (20436744)
中村 恭志 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 准教授 (40323315)
氏家 清和 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (30401714)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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キーワード | 河川氾濫 / 費用便益分析 / 治水計画 / 農地開発 / GP-GPU / 大河川 |
研究実績の概要 |
氾濫シミュレーションの高速化について、対象領域のデジタル標高モデル(DEM)を用いて並列計算プログラムを適用試行した。その結果、計算高速化が図られ、メッシュサイズを30m(これまでの約7分の1相当)としながら、従前の粗いメッシュでのシミュレーション計算時間の約1/7とできた。すなわち、およそ350倍相当の計算効率化が実現できた(以上実績数値比較は計算機能力に依存するが、いずれも当該研究費規模で入手可能なハードウェアで、両者の価格間には1オーダーの差はない)。メッシュ細密化により、これまで考慮できなかった用水路や支流、ため池、道路、などの微地形が考慮され、再現性も大幅に改善された。 治水が及ぼす社会的影響評価について、本研究対象地であるモーリタニアの首都ヌアクショットでの聞き取り調査で164人の消費者からコメの選好要因及び消費動向に関する回答を得た。消費者のコメ嗜好性は、「石や籾殻等の混雑物が少ない」や「コメの粒径が揃っている」ことが重視されており、それらの選好要因が満たされれば消費者は輸入米よりも国産米を選好する傾向にあった。したがって、ポストハーベスト技術の拡充の課題が残るが、治・利水事業に伴う農地開発及び生産性の向上は同国の食糧自給率の改善に大きく貢献することが示唆された。 需要動向調査に加えて、生産状況についても2018年3月に調査を行った。本調査では、コメの主要生産地である、セネガル川流域に位置するロッソで稲作農家への聞き取り調査を実施した。同調査では、生産コスト、作付けスケジュール及び作付け時期ごとの労働投入量、出荷量などを詳細に聞き取る事を目的として、29件の農家から回答を得た。調査結果から生産性や投入コストのばらつきが大きいことが明らかとなった。今後は、各農家の経営状況を定量的に評価するとともに、治・利水事業が稲作経営にもたらす効果も考察していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GP-GPUによる氾濫シミュレーションは高速化かつメッシュ細密化がはかられ、再現性の向上が進んだ。首都ヌアクショットでの消費動向調査を実施し、消費者の選択趣向性が把握できた結果、ポストハーベスト技術が普及すれば国産米は大きな市場を持ち食料自給率向上に寄与することが示された。既存の便益評価方法によれば同地域での治水事業の費用を上回ることはないと試算されたが、これらを勘案する評価手法を確立することにより事業採算性が見いだされることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
改良した並列計算プログラムでは任意の三角形メッシュ配置が可能のため、微地形を詳細に考慮した地形データを準備し、計算を行う。上記の試行では1999年の氾濫域分布の再現を検討していたが他年の氾濫域の再現も試み、数値シミュレーションの精度をさらに向上させる。 さらに、対象河川であるセネガル川はこれまで河床標高や河道断面を詳細に測量したデータが存在せず、先行研究内で実施された数地点の限られた測量データから推定し、河道形状データとしている。従って、セネガル川での測量を今後の現地調査において実施する。 また、これまでの調査から乾湖導水による便益は、洪水制御以外にも乾湖貯留による水資源確保の利水環境改善の側面も大きいことが把握されつつある。そのため、現地管理組織から得た1989年から2017年までのセネガル川の複数地点での水理観測データを検証データとして、低水位期についても確率流量・水位を算出し、利水便益を評価に加えていく。具体的には3月に実施した農家調査をもとに生産関数を推定し、灌漑設備の拡充等の利水環境の改善がもたらす生産性、所得の向上を評価して利水便益とする。 一方で、治・利水事業による食糧自給力強化の結果、輸入量が削減されて貿易収支が改善する等のマクロな観点で影響が及ぶ間接的便益も考慮していく。そのため、産業連関表を発展させた社会会計行列を便益評価に適用することで、他産業への波及効果や労働者の所得変動といった影響も詳細に評価する事が可能となる。しかし、モーリタニア国には産業連関表が存在しないため、類似した産業形態をもつ近隣諸国の産業連関表を参照して社会会計行列を推定し、間接的な便益の評価を試みる。特に、コメの生産から消費までの一連の流れは便益評価に大きく影響するため、これまでに実施した消費者、農家調査の結果から生産・需要関数を正確に推定し、分析に組み込むことで便益評価の精度を担保する。
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次年度使用額が生じた理由 |
代表者が学内業務の日程都合上、3月に行った現地調査に参加できず、そのおおよそ渡航費分を繰り越した。調査自体は現地協力者との十分な事前調整によって分担者らが速やかに遂行することができた。30年度は前述したように河道断面調査などさらなる現地調査を計画しているため、これに使用する。
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