研究課題/領域番号 |
16KT0027
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
青山 潤 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (30343099)
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研究分担者 |
北川 貴士 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (50431804)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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キーワード | サケ / 三陸 / 資源 / 利用 |
研究実績の概要 |
本研究は、三陸産サケに生態的、歴史的、文化的価値を付与することで、生産コストの高いサケ資源を、低価格の食材として消費する風潮を抑制し、サケ資源にふさわしいスマートデマンドを促進することを目的とする。本年度は、本年度はこのうち(1) 天然環境で産卵する野生サケの生態解明のための自然科学研究および(2) 民俗学、歴史学など様々な資料を収集し、日本人とサケの関わりを考察する新たな「サケ民俗学」の創生を目指す研究に注力した。得られた成果の概要は以下の通り。(1)自然産卵に由来する野生魚と人工孵化放流魚の降海行動を比較するため,2016-2017年シーズンに降海時期全体にわたる調査を実施したところ、人工ふ化放流の行われている大槌川と自然産卵のみの小鎚川では,サケ稚魚の流下のタイミングが異なることが明らかになった。大槌川における稚魚の流下には放流のタイミングが大きく影響するのに対し,自然産卵に由来する小鎚川の稚魚は,生理・生態学的特性に基づく独自のスケジュールで流下しているものと考えられた。サケ稚魚の沿岸域における分布生態を明らかにするため,大槌湾内の箱崎,室浜,安渡,根浜の計4カ所において,それぞれ2-7回の地曳網および砕波帯ネット(箱崎,室浜),二艘曳き網(安渡,根浜)を用いた採集調査を実施した。その結果,砕波帯ネットおよび地曳網の両方で稚魚が採集された箱崎において,地曳網のほうが大型の稚魚が採集される傾向があることがわかった。砕波帯ネットは波打ち際のみを,対して地曳網は20mほど沖合から波打ち際までを曳網することから,シロサケ稚魚が成長に伴い沖合へ移動することが示唆された。(2)三陸沿岸を中心にサケの民俗学的研究を展開し、これまで知られていなかった多くの貴重な情報を得た。これら成果は関連学会で発表すると共に、書籍として取りまとめることとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究における「野生サケの生態解明」および「民俗学研究」において著しい進展が得られた。特に自然産卵に由来する野生魚と人工孵化放流魚の降海サイズが異なることが明らかになったことから、両者の降海生態を比較する研究展開を図ったところ、降海期間、降海ピークおよび量、河川内における降海経路など様々な生態的差異の存在が示唆されつつある。こうしたアプローチは、我が国サケ研究の中心地である北海道でもようやく途についたばかりであるため、2018年3月に札幌で開催された日本生態学会第65回全国大会自由集会「北日本の環境アイコン「サケ」の保全活動を考える」で講演を行い、北海道のサケ研究者と情報交換を行うネットワークの構築に努めている。一方、これまでアイヌ民族が中心だった我が国のサケ民俗学研究について、2017年4月より専任の研究員:吉村健司を雇用し、三陸沿岸における集中的な現地調査を実施している。着任早々の2017年6月25日には河北新報で「岩手大槌東大センター初の文系研究員吉村さん着任。三陸サケ文化幅広く調査」として取り上げられた。ここでは江戸期以降のサケ漁獲量、漁獲高、資源動態などを古文書や資料から読み解く研究を進める一方、伝説や信仰などを広く網羅し、人間とサケの関わり方の変遷を明らかにすることを目的としている。また、生態学を含めた本研究の一連の成果は、IBC岩手放送「鮭に学ぶ人~“大槌の東大”命と海を見つめて」として放映、また岩手日報社の新聞連載「サケの乱」にも度々掲載され、漁協や地域社会の関心の高さがうかがわれる。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画では、得られた生態学的・民俗学的成果を我々自身で普及・啓発する予定だったが、地域から想定以上の反応があり、新聞などのマスコミを通じて本研究の意義や成果、目指すところへの理解は進んでいる感がある。そこで最終年度の方針として、自然科学研究については野生魚とふ化放流魚の生態学的な差異を明らかにし、関係する国際学術雑誌で公表する予定である。これら生態学的な知見を組み合わせ、本研究の出口の一つとした「新たなサケ資源増殖法」についても積極的な提案を行う。また、本研究の研究協力者である東北歴史博物館副主任研究員の小谷竜介氏(民俗学)を東京大学大気海洋研究所の客員准教授として招聘し、吉村健司研究員と共にサケの民俗学研究分を強力に推進する体制をすでに整え、2018年4月より活動を開始している。ここで得られた成果を「三陸のサケ民俗学」に関する初めての書籍として出版することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
専任の研究員雇用経費並びに研究協力者への相当経費を見込んでいたが、部局内および他の財源が活用できたことにより予算を大きく縮小することができた。研究遂行に必要な人員はすでに確保できているため、本経費分は調査・研究のための物品、旅費、その他活動費とするほか、得られた成果の対外発信(書籍、パンフレットの作成)などに使用する予定である。
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