研究課題/領域番号 |
16KT0031
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
西條 雄介 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 准教授 (50587764)
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研究分担者 |
中尾 佳亮 京都大学, 工学研究科, 教授 (60346088)
藤田 美紀 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 研究員 (70332294)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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キーワード | 環境調和型植物生産 / 内生菌・共生菌 / 植物成長・生理 / 植物分子生理学 / 植物代謝調節 |
研究実績の概要 |
環境に低負荷で安定的・持続的に食料生産を高める戦略として、植物の成長・健康を増進する共棲微生物(内生微生物、エンドファイト)を活用することに期待が集まっている。一方で、甚大な被害をもたらす植物病虫害を防除することも極めて重要な位置付けにある。しかし、共棲菌を許容しながら病原菌を撃退することは技術的に困難であると予想される上、共棲菌の大部分について未同定もしくは生理的役割や効果的な活用法が不明であるのが現状である。申請者らは、炭疽病菌等の病原菌と近縁でありながらアブラナ科植物の成長を促す共棲糸状菌を単離し、それによる植物の成長促進効果には植物のトリプトファン代謝経路による共棲菌の制御が必要であることを見出した。トリプトファン由来の二次代謝化合物には耐病虫性機能が知られる抗菌性物質が含まれており、本代謝経路を改変・活用すれば病原菌防除と共棲菌活用を両立する栽培技術が開発できると考えた。 平成28年度においては、野外圃場において異なる施肥条件で育てたアブラナ科植物(ダイコン等)から多数の共棲糸状菌を単離し、実験室でシロイヌナズナに接種して植物成長促進機能や植物病原菌防除機能を有する共棲糸状菌を同定した。植物免疫関連の変異体植物を用いた解析から、共棲菌の機能を発揮させるには宿主のトリプトファン代謝経路が必要であること、並びにその欠損は対応する生成物の有機合成物質の投与により相補されることも確かめた。したがって、申請計画の有効性に関して確信を得ることができた。現在、単離された有用糸状菌のゲノム解析や機能解析を進めている。同時に、アブラナ科作物を用いて、様々な生育条件において共棲糸状菌のスクリーニングを引き続き進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①内生糸状菌資源の探索。圃場の土栽培(異なる施肥条件)で育てたアブラナ科植物(ダイコン等)から内生糸状菌を単離し、リボソーム保存配列(ITS領域)情報にもとづき分類した。分離した内生菌の一部についてシロイヌナズナに接種して機能(リン欠乏・充分条件における植物の成長促進など)を評価した。中でもColletotrichum gloeosporioides (Cg)の内生株と病原株に着目し、それぞれE41・E40を命名して以降の解析に用いた。既知のモデル内生菌Colletotrichum tofieldiae (Ct)とは異なり、リン充分条件でのみ内生型E41は植物成長促進効果を示した。さらに共接種すると病原型E40による病兆を軽減し、植物保護機能も有することが分かった。 ②モデル内生菌及び病原菌との相互作用におけるトリプトファン代謝系の役割の解明。内生菌として、当初予定していたFusarium Sp.(機能が不安定)は使用せず、代わりにCg内生型E41を主に用いて解析を進めた。また、病原菌として、Ctと非常に近縁なC. incanum (Ci)に加えて、Cg病原型E40を用いて解析を進めた。シロイヌナズナのcyp79B2 cyp79B3変異体などトリプトファン代謝関連の様々な変異体について、内生菌による成長促進効果や病原菌抵抗性への影響を調査し、各ステップの貢献度を明らかにした。 ③糸状菌制御に有効なトリプトファン代謝産物・派生物の有機合成と同定。トリプトファン代謝産物の有機合成品(中尾)あるいは市販の標品を、シロイヌナズナの野生型や上記の変異体植物に投与してCt成長促進効果や病原菌抵抗性に与える影響の調査に着手した。触媒ステップの生成物であるIAOxの投与によるcyp79B2 cyp79B3 植物の罹病性の相補を指標にしてアッセイ系の条件検討を行った。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、上記の①②③を進めていく。 ①については、これまで解析に加えていない季節や作物を加えるとともに、糸状菌のカルチャー条件に関しても培地など異なる条件を試すことで、質的に異なる微生物資源の単離が可能になると期待している。②については、植物の生育条件や糸状菌の接種条件次第で相互作用の効果が異なることが判明しており、 従来の無菌培地条件のみならず、環境中の他の微生物も関与し得るオープンな条件について現在検討を進めている。Cgの両菌株については現在ゲノムのシークエンス解析を進めている。また、予算的に可能であればCtもしくはCgを感染させた植物においてRNA-seq解析を行い、植物・菌双方の応答に関して遺伝子発現レベルの情報も得たい。③については、ケミカルレスキュー実験系が確立できたので化合物ライブラリーのスクリーニングを着実に進めていく。 また、シロイヌナズナにおいて一定の成果が上がりつつあり、コマツナ等、アブラナ科作物において効果の見られた菌・化合物に着目して、解析条件の至適化を図りながら菌接種および化合物投与による影響の調査を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
大学院生および他の経費で雇用した技術補佐員の助力により、予定していた技術補佐員の雇用予算を縮小しても初年度の研究計画は概ね順調に進めることが出来たため。また、単離された新規の内生糸状菌2菌株に関して、それぞれ単独もしくは共接種した植物におけるRNA-シークエンス解析を実施することにしたものの、年度内には解析が終了せず次年度に計上となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額の大部分は、上記のRNA-シークエンス解析に計上される見込みである。残りに関しては、圃場から単離した菌の培養や分子生物学的解析に必要な消耗品費や研究打合せ・発表のための旅費として使用する計画である。
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