研究課題/領域番号 |
16KT0040
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小野塚 知二 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (40194609)
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研究分担者 |
横井 勝彦 明治大学, 商学部, 専任教授 (10201849)
榎本 珠良 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員 (50770947)
佐原 哲也 明治大学, 政治経済学部, 専任教授 (70254125)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2020-03-31
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キーワード | 反戦平和運動 / 第一次世界大戦 / ナショナリズム / 軍事的自立 / 難民危機 / 刀狩り / 小火器管理 / 武器貿易条約 |
研究実績の概要 |
小野塚知二は、第一次世界大戦前の国際的な反戦平和運動の組織的な基盤となった国際労働運動には、労働市場における国際的供給制限(ギルドと同様のカルテル機能の国際版)を通じて、過当競争を緩和して、ナショナリスティックな被害者意識と敵愾心が蔓延するのを防止しえた可能性のあったことを明らかにした。横井勝彦は横井[2019年]で1960年代の冷戦下にインドが目指した「軍事的自立化」の実態を究明し、特に、インドの航空機製造業と造船業に注目して多角的な武器移転の構造を解明した。佐原徹哉はトルコ、マケドニア、ギリシャ、セルビア、ブルガリアで調査を行った。トルコではネヴシェヒル周辺のアフガン難民、ギリシャではレスボス島のシリア難民、セルビアではベオグラードの難民一次受け入れ施設のイラク難民に出国時の情況などをインタヴューし、マケドニアとブルガリアでは2016年の欧州難民危機に際しての一般市民の反応に関してジャーナリストたちに聞き取り調査を行った。榎本珠良は、刀狩り以降の近世日本において百姓が農具として鉄砲を所持していたことに注目して、民衆の間に普及した小火器を有効に管理しうる可能性を示した。 また、本研究のメンバー全員で、2018年8月に東京で開催された武器貿易条約(ATT)第4回締約国会議に向けて、海外研究者も招いてシンポジウムを開催し、ATTの履行状況と課題について意見交換を進めた。これらの成果は明治大学『国際武器移転史』第6号、第8号などに発表した。 これらを通じて、紛争の民衆的および技術的基盤を踏まえた防止策が現実に可能となる条件が、①社会的契約・黙契としての武器リテラシーの有無および強度と、②武器移転・武器調達の実効的な管理との相互依存的な関係のほかに、③武器に対して心理的・物理的に脆弱な人びとに対する適切な保護と、「武器優位」を美的ではないとする規範が重要であることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各事例の研究については、概ね、ひとまとまりの仮説を構築しうるところまで進展した。最終(2019)年度に研究成果を取り纏めうる展望を獲得した。 武器貿易条約(ATT)に関しては、締約国会議が開催されたこともあり、国際的な関心が高まり、多数の研究者と意見交換を行い、本研究計画の基本的な方向性について理解を得るとともに、今後の協力関係も構築された。この点は当初の計画以上に進展している。 これらの成果を取り纏めるための条件もほぼ確定することができたため、本研究全体の総合的な研究成果を学会発表、学会誌および図書などの形で公開することが可能な段階に到達している。この点はおおむね順調である。ただし、一般向け・NGO向けのホームページ等を通じた情報発信については、プラットフォームの立ち上げに到っていないだけでなく、情報提供者の利益保護の観点からも、いま少しの工夫を必要としている。
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今後の研究の推進方策 |
最終(2019)年度は、紛争の民衆的な基盤について、第一次世界大戦を代表的な例とする国家間の正規戦、独立直後の国家の「自衛」的紛争と軍拡の循環構造、聖戦(ジハード)を論拠とする暴力的な領域支配と難民発生、および、民衆に小火器が普及している場合にも有効な武器管理と高度な社会的武器リテラシーを成り立たせる倫理的条件の4点について、当初の研究計画にも照らして、本研究全体の成果取り纏めの方向性を確定する。 その過程でも、内外の研究者との間の交流・意見交換を通じた本計画の外部評価と、それに応じた研究方法等の微調整は行うが、最終年度は基本的に、研究組織内での緊密な協力関係を通じて、研究成果の確定と摺り合わせに注力し、あわせて、一般向けの情報発信に向けた努力もする。
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次年度使用額が生じた理由 |
武器貿易条約(ATT)第4回締約国会議関連の国際研究集会(2018年8月)に招聘した外国人研究者の旅費を、8月のピークシーズンの日本発往復運賃で計算していたところ、外国発の往復運賃が実際にはそれより廉く、また、謝金についても、締約国会議関連の国際研究集会に要する費用を日本国外務省が負担することとなり、当初予定より支払金額が少なくなったためである。 次年度使用額については、2019年度に実施する国際会議参加や史料調査の費用に充当する。
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