2022年9月に約3週間のフィールドワークをトリニダード・トバゴにおいて実施した。第1に、大司教区古文書館、国立古文書館および西インド諸島大学附属図書館(West Indiana CollectionならびにEric Williams Memorial Collection)では、主に19世紀後半~20世紀前半にかけての古新聞記事、歴史家であり同国初代首相であるエリック・ウィリアムズによる論文原稿、日記、書籍内に書き残したメモなど幅広いデータを収集することができた。第2に、異なる宗教・宗派間の交流・紛争・妥協の場であるマリア信仰の中心地であるシパリア教区とモンセラート教区での参与観察と聞取り調査を継続した。聞取り調査は、これまでと同様、マリア像の管理と手入れを担っている女性信者を中心に行った。第3に、政治経済と宗教、エスニシティのつながりと相互作用についてさらに深く理解するため、カカオ農園での参与観察とフランス系、スペイン系カトリック農園主への聞き取り調査を実施した。本研究課題は、多宗教間の関係がエスニック集団間の関係に与える影響について、歴史的背景や社会構造を共有している旧英領植民であるトリニダード・トバゴとガイアナの比較を通して明らかにすることを目的として実施してきた。これまでの調査、また今回の追加調査によって、19世紀後半から政治独立期にかけて、宗教間関係、また教会と国家の関係がどのように推移してきたかについてより深い考察によって、比較的安定した発展を遂げてきたトリニダード・トバゴと頻発する民族紛争が発展を阻害してきたガイアナとの最も重要な相違点であることが明らかになった。課題終了後もデータの分析と考察に基づく論文、学会発表によって研究成果を共有していく。
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