研究課題/領域番号 |
16KT0046
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
武内 進一 東京外国語大学, 現代アフリカ地域研究センター, 教授 (60450459)
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研究分担者 |
渡邊 祥子 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 研究企画部, 海外研究員 (20720238)
佐藤 千鶴子 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センターアフリカ研究グループ, 研究員 (40425012)
佐藤 章 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センター, 主任調査研究員 (60450491)
津田 みわ 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センターアフリカ研究グループ, 主任研究員 (70450468)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2020-03-31
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キーワード | 紛争 / アフリカ / 動員 / 政党 / 資源 / 宗教 / 労働 |
研究実績の概要 |
本研究は、紛争の動員を4つの要素(資源、宗教、政党、労働)から分析することに主眼を置いている。2年目の2017年度は、特に紛争と宗教の関係性に関わる研究を深めることに精力を注いだ。年度前半に西アフリカのイスラームを専門とする講師を招いて研究会を実施し、年度後半には分担者の一人佐藤章氏が主査を務める「アフリカの政治・社会変動とイスラーム」研究会(アジア経済研究所)と連動する形でイスラームについての理解を深めた。 現在紛争に結び付く形で急進的なイスラーム主義が興隆している地域としてはマリ北部、ナイジェリア北西部、ソマリアが挙げられる。それぞれイスラームの受容や急進的イスラーム主義の興隆に関する歴史的文脈は異なるが、近年の政治変動のなかで機会主義的に急進的イスラーム主義を採用する集団が登場し、力を持つようになった。アフリカの紛争におけるイスラームの問題を考える場合、各社会におけるイスラームの受容に関する理解は必須だが、それとイスラーム急進主義の勃興や紛争とイスラームの結びつきは分けて考えるべきである。宗教が人びとを分断し動員するシグナルになるという点では、民族(エスニシティ)をめぐる問題との共通性が強いと考えられる。 2017年度も、研究成果が活発に発表された。特に資源について、2016年度に取りまとめた研究が出版物として公刊(武内編『現代アフリカの土地と権力』)されたほか、研究成果の一部を全米アフリカ学会のパネル(”Land Reform, Rural Changes, and Political Power in Africa”)にて発表する機会を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は4年間の研究期間だが、初年度は資源、第二年度目は宗教を特に掘り下げて研究した。紛争における動員に関わる4つの要因のうち、これら2つが特に重要であるため、まずこれらを先行させたためである。この2要因については、政治、紛争との関係について一定の見通しを持つことができた。まず資源については、政治権力の集中・分散と深く関係する。集権的な体制が資源を使ってさらに政権を強化できる反面、分権的な体制下においては資源の存在がさらなる分権化を促進する。このように資源は、政治権力の集中、分散を増幅させる役割を持つと考えられる。政治体制の性格分析とセットで資源に関わる分析を行う必要がある。一方、紛争の動員に対する宗教の役割について考える際には、民族やエスニシティに関する議論の蓄積が役立つ。Timur Kuran, James Fearon, John Mullerらが1990年代に民族紛争とその拡散について行った議論は、宗教に関しても有効な分析視座を提供すると考えられる。 この2年間、資源、宗教というアフリカの紛争に関わる重要な要因について掘り下げた分析を行い、また一定の理論的見通しを得ることができた。それら理論的見通しは、様々な事例に応用可能と考えている。以上の点を考慮すれば、ここまでの進捗はおおむね順調と考えてよい。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は3年目であり、本研究も後半に入る。これまでは個々の要因に着目した研究を行ってきたが、今後はそれら要因と紛争に際しての動員という観点から、4つの要因を統合させる方向で研究を進めたい。具体的には、紛争に関わる理論的なサーベイを行い、特に動員についてどのような分析がなされているかを洗い出す。そのうえで、アフリカにおける幾つかの具体的な紛争事例にあてはめながら、理論化を図っていくことになる。本研究のオリジナリティは、動員を政治体制との関係で考察することである。政治体制が集権的か、分権的かによって、紛争の様態、特に動員のあり方は大きく異なる。紛争時の動員に関する従来の議論は、上述したKuranらのものを含めて、政治体制と関連付けた考察がなされていない。紛争と言っても、国家レベルの大規模なものから、コミュニティレベルのものまで多様であり、そこでの動員の特徴にも多様性がある。本研究では、政治体制を考察に加えることによって、紛争の多様性を組み込んだ理論構築を目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地調査実施に際して、航空運賃が予定価格を大幅に下回ったうえに、現地で購入した資料の価格が為替の影響等もあり予定を大きく下回ったことが、繰越金の最大要因である。購入を予定していた書籍の出版が遅れたことも、支出が予定を下回る要因となった。これらの繰越金は、平成30年度において、現地調査費、資料購入費として執行する予定である。
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