研究実績の概要 |
三重項融合(TF)を起こす分子である9,10-Diphenylanthracene (DPA)の反応機構に関するこれまでの研究では、反応効率を左右する遷移状態動力学にとって分子回転が重要な役割を果たしていることが分かった。そこで、TFの遷移状態研究に必要な分子回転の速さを解明することを目的に、蛍光偏向緩和を測定することでDPAの回転相関時間を実験的に決定した。粘度の異なる幾つかの溶媒を用いて、濃度1.0 × 10-5 MのDPA溶液を調製した。励起光源として垂直偏光のパルスレーザー(波長375 nm)を用い、角セル中のDPA溶液に照射した。レーザー光軸の直交方向に発せられた蛍光をワイヤーグリッド偏光子に透過させた後、単一光子計数器を用いてその時間変化を測定した。偏光子を回転させることで、蛍光の垂直偏光成分ならびに水平偏光成分の強度(I||, I⊥)の時間変化をそれぞれ測定した。蛍光の異方性比r(t)解消は無秩序な分子回転に由来するので、蛍光分子の剛体球近似に基づいて、指数関数解析を行った。得られた回転緩和時間はStokes-Einstein-Debyeの関係式で予想される結果と一致した。
|