研究実績の概要 |
本研究では,遷移状態近傍の相空間構造に関する理論的知見に基づいて化学反応を制御することを目的とし,特に反応分子に対する周辺の分子(「溶媒」など)の影響に注目して理論的研究を遂行している。対象として,HCN→CNHの異性化反応をとりあげ,周囲にAr原子を1個置いた系を考察している。1~5年度目には,Ar+HCN系のシミュレーションを行うための電子状態計算とポテンシャルエネルギー面の作成とそれを用いた反応ダイナミクスの解析を行うとともに,遷移状態付近の相空間構造に着目し,相空間内の反応性境界を抽出した。 5年目からは,機械学習を用いた解析に着手した。本反応において重要な因子が何かを解明するために,各原子の初期座標と速度を入力として用い,反応の結果を機械学習によってどこまで予測できるかを調べた。ランダムフォレストによる学習結果についてpermutation importaceおよびSHAPを計算して各変数の重要度を調べた。その結果,第一義的にはH原子のCN軸に平行な方向の速度が反応の成否に効いているものの,Ar原子が近くに存在するとH原子のCN軸と垂直な方向の速度が影響をもつことが見出された。このAr原子の効果をより詳細に理解するために,各変数の寄与の大きさを評価するSHAPという量を任意の2変数に対してプロットする解析手法を開発し,Ar原子の位置による反応への影響の違いを明らかにした。これら反応に成否を左右する重要な変数の役割について分子論的な解釈を得るために,最終年度には相空間構造,特に反応性境界の位置をシミュレーションと機械学習で求めて結果を比較した。機械学習の結果がシミュレーション結果をよく再現することが確認できると共に,各変数の役割を分子間相互作用の性質に基づいて説明することができた。 以上の結果の論文執筆を最終年度に進め,投稿を完了した。現在審査中である。
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