研究課題/領域番号 |
16KT0059
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
青木 百合子 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (10211690)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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キーワード | 遷移状態 / 量子化学 / ELG-RP-TS法 / 高分子反応 / 電子状態 |
研究実績の概要 |
本課題では申請者が世界に先駆けて提案した大規模系に向けた量子化学理論 Elongation(ELG)法の利点を生かしながら、新しい高効率遷移状態探索法を導入することにより、反応制御・触媒設計が困難である現状の触媒分野の問題を解決することに貢献することを目的としている。 ELG法において、化学的に重要な遷移状態計算・解析に必要な反応活性領域とその周辺の Hessian(二次微分行列) を効率的に計算するELG-Hessian 法と、Hessianを要しない効率的Replica-Path (ELG-RP)法を導入する。これらの手法を用いて高分子反応過程における遷移構造他、活性化エネルギー、反応熱などの物理量が定量的に得られるよう手法を高度化する。さらに、高分子重合反応ルート解析、高分子の立体規則性制御の原理解明および新触媒設計等に適用できる理論的手法を展開する。 上記を達成するために、均一系および不均一系触媒双方に適用可能となるよう、固体のための密度汎関数法に基づく第一原理計算や量子化学計算に基づくELG法と結び付け、高分子鎖伸長過程で生じる反応末端に局在化した領域局在化分子軌道を基底としたTS探索(ELG-RP-TS)法を構築する。本効率的遷移状態探索法を土台に、エチレンによる活性点の形成、その後の重合機構について未だ明確に明かされていないZiegler-Natta 触媒、Phillips触媒やKaminski触媒などに対する網羅的な遷移状態計算等への適用を通して、オレフィン重合における遷移状態制御因子や助触媒の役割やTSでの軌道相互作用を解析し、新触媒設計や反応設計に資するシミュレータを構築する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Elongation(ELG)法において、化学的に重要で遷移状態(TS)計算・解析に必要な活性領域とその周辺の Hessian(二次微分行列) を効率的に計算するELG-Hessian 法の構築および、Hessianを要しない効率的Replica-Path (ELG-RP)法の導入という二種類の開発を手がけ計画以上の進展があった。 前者のELG法へのHessian 計算組込についてはほぼ終わりテスト中である。本方法をメタロセン触媒に適用する前段階として、まずGaussianプログラムを用いて現在でも未解明部分が残されている助触媒効果を含めたポリオレフィン重合反応ルート解析を行った。一方で、TSにおける軌道相互作用解析のための、Through Space/Bond(TS/TB)-TS解析法の開発平行して行っている。 後者のELG-RP法については、化学反応経路を計算する強力な手法であるNudged Elastic Band(NEB)法に着目して開発中である。Elongation法を不均一系触媒にも適用可能となるよう二種類の切り口から攻めている。一つめは、平面波基底による固体用の密度汎関数プログラム(VASP)に、NEB法、Climbing-Image-NEB法, Dimer 法を段階的に作用させることにより機械的にTSを見出す手法に改良を加え、Ziegler-Natta触媒反応に適用を行った。異なる活性中心元素Ti、Zr、Hfに対して適用した結果、類似の反応経路が示唆された。二つめは、量子化学計算による高分子伸長反応解析を目的としており、ELG法上でのNEB法稼動のための構造最適化ルーティンを呼び出すインターフェースを構築し、ポリエチレンに適用した。ELG法による活性軌道を元に反応末端の回転障壁が正しく算出できることを確認し、全伸長過程における演算効率を検証中である。
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今後の研究の推進方策 |
本課題を開始して8ヶ月以内で予想を超えた進展が見られている分、多くの問題点も見出されているため、これらを整理しつつ手法の改良に努める。平面波基底の密度汎関数法(VASP)と結合したNudged Elastic Band(NEB), Climbing-Image NEB, Dimer Method を介したTS探索法においては、特にCI-NEB法を適用する段階でのTS計算の収束性に問題が判明していること、活性中心元素にスピンー軌道相互作用の導入が必要であることなどを鑑みて更なる改良を加える。Elongation(ELG)-NEB法においては、ELG法自体が小さな系では本来の演算効率を発揮できないため問題点が十分洗い出されていない。より大きな高分子系に適用することにより本手法の有効性を検証していくとともに、ELG法実行過程で生成する副産物を利用した領域局在化軌道基底での局所振動解析法の高精度化も行う。 一方、不均一系触媒解析および重合高分子の立体規則性解析や設計を行うためには、VASPやELG法と結合したレプリカパス法および精密な振動解析も選択肢として利用できるハイブリッドTS探索法が有効であり、それぞれの長所を融合した手法を体系化することにも努めたい。 また、実際の均一系および不均一系触媒反応過程において捕らえられた遷移状態(TS)での構造におけるデリケートな物理量を議論するために、化学的精度で定量性をもって精密解析が可能となる手法の構築が必要である。そこで、遷移状態における軌道相互作用解析のために、独自に開発してきたThrough Space/Bond(TS/TB)解析法を、活性中心金属も含めた重要な反応近傍を全て含めて扱うことができるようプログラムを改良し、相対論効果、電子相関効果を含めた形で大きな基底関数を用いた解析が実現するよう展開する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度末に購入予定の書籍が年度末のため手配が間に合わず、次年度に購入を延期するため、取りやめた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に書籍の購入を行う。
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