研究課題
本課題では均一系および不均一系触媒反応に対し、効率的に遷移状態を探索する手法を構築し、反応制御・触媒設計が困難である現況の触媒分野の問題を理論的に解決することを目的としている。これまで開発してきたElongation法にNudged Elastic Band(NEB)法による構造最適化ルーティンを呼び出すインターフェースの導入を試みた。簡単なテストモデル高分子に適用して反応末端の回転障壁等が正しく計算できていることを確認したが、Elongation法の構造最適化がデカルト座標であるために、これを内部座標によってさらに効率的に実行できるように発展中である。一方、平面波基底による周期性固体用の密度汎関数プログラム(VASP)に対し、たとえば表面触媒反応の場合に、未知の反応前後の構造に対しても、効率的に遷移状態(TS)を見出す手法を展開している。NEB法、Climbing-Image-NEB法, Dimer 法を段階的に作用させることにより機械的にTSを見出す手法を構築し、Ziegler-Natta(ZN)触媒反応に適用を行った。第一原理電子状態計算に VASP を、遷移状態探索には Henkelman らの VTST コードを用いた。 ZN触媒の計算モデルとしては、3層からなる(2×4)のMgCl2(110)面の表面にMCl4(M=Ti,Zr,Hf)を担持させたスラブモデルを用いて適用した。遷移状態探索法の改善のため、VTSTに実装されている複数の計算手法を段階的に切り替えるプロトコルの確立にも取り組んだ。また、ポリオレフィン合成における高い構造制御能を持つため重合触媒として注目されている均一系メタロセン触媒について、構造選択性の機構解明、ポリプロピレン重合の構造制御メカニズムの解明反応ルートの解析、助触媒の役割等について解明を行った。
2: おおむね順調に進展している
計画の一つであったElongation法に振動解析を導入する作業は、さらなる検証が必要ではあるものの形式上終わっている。また、化学反応経路を計算するためのNudged Elastic Band(NEB)法について、固体用の密度汎関数プログラム(VASP)に、NEB法、Climbing-Image-NEB法, Dimer 法を段階的に作用させることにより機械的にTSを見出すプロトコルを構築し、Ziegler-Natta触媒反応に適用を行った。異なる活性中心元素Ti、Zr、Hfについて、電子状態の立場から解析を行い、活性点形成やアルキル化のプロセスに関わる遷移状態を、一部不明確な点が残っているもののほぼ順調に計算できている。さらに、NEB法をGaussianのOptimizerと結び付け、様々な有機反応に対してベンチマークテストを行った結果、その遷移状態到達の成功率や正確性において、市販のソフトウエアに勝る優位性を示すことが出来た。一方、ジルコセン錯体を触媒とした高分子重合反応ルート解析や高分子の立体規則性制御の原理解明および新触媒設計などに適用できる理論的手法を展開している。メタロセン触媒に対して、オレフィン重合における遷移状態制御因子や助触媒の役割についても解析を行い、ジルコセン錯体へのオレフィン付加のパターンとポリマー生成に至る遷移状態(4員環中間体)の間の活性化エネルギーとの関係を調べた。触媒(MAO)も含めたDFTによる詳細な遷移状態計算を併用しながら、優先的な付加の形態を検討した結果、反応前とTSの間の実質的な構造変化と、モノマーの立体規則性制御の関係が明らかとなった。上記の進捗状況はおおむね順調に進展していると言えるが、論文投稿において、Reviewerの意見や新たな要望により、さらに詳細に検討するべき内容が発生している状態ではある。
得られた成果を論文に投稿する過程で判明したことであるが、特にKaminsky触媒反応は古くから多くの研究がなされており、計算を行っている実験家からのコメントによると現在流行となってしまったDFTレベルでの多くの汎関数による検証は避けられない状況にあり、様々な条件での検証抜きには論文化は難しいようである。また、過去の多くの研究者が様々な反応過程に関する説を唱えており、それらを踏まえた実証も必要である。これらの問題を整理しつつ手法の改良に努める必要があることが判明した。また、平面波基底の密度汎関数法(VASP)と結合したNudged Elastic Band(NEB), Climbing-Image NEB, Dimer Method を介したTS探索法においては、特にCI-NEB法を適用する段階でのTS計算に計算時間を要している問題が十分に解決されていないため、さらに検討を要する。一方、Elongation(ELG)-NEB法においては、ELG法自体が小さな系では本来の演算効率を発揮できないため問題点が十分洗い出されていない。これは母体である汎用GAMESSプログラムパッケージGAMESSの限界により、Elongation法の性能が制限されていることが大きな要因であることも分かってきた。当初の計画には具体的には含めていなかった内容ではあるが、これを解決するためにはElongation法をGAMESSから切り離し、PySCFプログラムに移植する方策を考えている。これにより、NEB法とElongation法の結合も容易かつ効率的で、長い目で見てユーザーが使いやすいソフトウエアに発展できると期待できるため、さらに一年延長してより充実した反応解析システムへと発展させる予定である。
古くなってきたサーバーの買い換えを予定していたが、まだ問題なく稼働していることと、運営費交付金の制約から電気代を節約する必要があり、今年度は購入を見送ることとなった。旅費に関しては、協力研究者となっている海外教授を招聘して共同研究を行う予定であったが、予定額の枠内では教授レベルの招聘は無理であったことと先方と代表者の時間的調整が困難であったことから、海外からの特別研究学生を採用してZiegler-Natta触媒反応解析の一部を分担させると共に、テクニカルスタッフや学生による計算補助に置き換えている。また、想定していた国内外研究発表旅費については、専攻長等の業務の都合で予定より少なくなり、その結果、想定した使途計画と実際に使用した旅費との間に差が生じてしまっている。今年度は、これまでの問題点を明らかにしてさらに展開するための演算やデータ整理のためのテクニカルスタッフ採用、およびこれまでの成果発表のための、国内外学会発表、海外協力研究者との研究打ち合わせのための旅費に充てる予定である。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 5件、 招待講演 3件)
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