研究課題
酵素反応では、酵素と基質が「遷移状態」を形成した後に生成物を生じる。この過渡的にしか存在しない遷移状態とよく似た構造をもつ安定な遷移状態アナログは、酵素の活性中心と直接相互作用するため、高活性、高選択的な酵素阻害薬となり得る。遷移状態アナログは、低分子医薬品創製、遷移状態アナログの免疫による抗体酵素の作製、ケミカルバイオロジー研究、酵素反応機構の解明研究など、さまざまな分野で応用されている。これまでに報告された遷移状態アナログは、基質の構造を基にしたものがほとんどであったが、最近、申請者らは、一見して基質と全く異なる構造の化合物が酵素の遷移状態構造を安定化し、高い酵素阻害活性、選択性を示すことを見出した。本研究では、上記の知見を基に、リシン脱アセチル化酵素(KDAC)アイソザイムの遷移状態構造を時間依存的に安定化する高活性かつ高選択的な阻害薬の創製を目指す。平成28年度は、これまでに我々の研究グループおよび他の研究グループが報告したKDAC阻害薬のKDACアイソザイムに対する結合速度定数(kon)および解離速度定数(koff)を測定し、速度論的なアイソザイム選択性を調べた。その結果、あるKDACアイソザイムに対して、速度論的な選択性を示す阻害薬を見出すことに成功した。また、ある程度の構造-速度論的活性相関、構造-速度論的選択性相関も明らかにすることができた。今後、上記の知見を基に、阻害薬の酵素の遷移状態構造安定化にいたるまでのメカニズムを推定し、それを基に新規阻害薬の分子設計、合成、活性評価を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、KDAC阻害薬のKDACアイソザイムに対する結合速度定数(kon)および解離速度定数(koff)を測定し、速度論的なアイソザイム選択性を調べることにより、KDACアイソザイムに対する速度論的な選択性を示す阻害薬を見出した。ある程度の構造-速度論的活性相関、構造-速度論的選択性相関も明らかにすることにも成功した。
今後、平成28年度に得られた知見を基に、阻害薬の酵素の遷移状態構造安定化にいたるまでのメカニズムを推定し、それを基に新規阻害薬の分子設計、合成、活性評価を行う。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
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