研究課題
酵素反応では、酵素と基質が「遷移状態」を形成した後に生成物を生じる。この過渡的にしか存在しない遷移状態とよく似た構造をもつ安定な遷移状態アナログは、酵素の活性中心と直接相互作用するため、高活性、高選択的な酵素阻害薬となり得る。遷移状態アナログは、低分子医薬品創製、遷移状態アナログの免疫による抗体酵素の作製、ケミカルバイオロジー研究、酵素反応機構の解明研究など、さまざまな分野で応用されている。これまでに報告された遷移状態アナログは、基質の構造を基にしたものがほとんどであったが、最近、申請者らは、一見して基質と全く異なる構造の化合物が酵素の遷移状態構造を安定化し、高い酵素阻害活性、選択性を示すことを見出した。本研究では、この成果を基に、リシン脱アセチル化酵素(KDAC)アイソザイムの遷移状態構造を時間依存的に安定化する高活性かつ高選択的な阻害薬の創製を行う。平成30年度は、前年度までに見出した、高い薬理効果を示す速度論的選択的なKDACアイソザイム阻害剤の毒性に関する試験を行った。その結果、本阻害剤は、非選択的KDAC阻害剤に見られる毒性を示さないことが分かり、速度論的選択的なKDACアイソザイム阻害剤の副作用の少ない治療薬としての可能性を示すことができた。また、これまでの知見を基に、別の速度論選択的KDACアイソザイム阻害剤を見出すことにも成功した。今後、その速度論選択的KDACアイソザイム阻害剤の薬理作用等を調べる予定である。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、高い薬理活性、低い毒性を示す速度論選択的KDACアイソザイム阻害剤を見出すことに成功した。また、別のKDACアイソザイムに対する速度論選択的阻害剤を見出すことにも成功した。
今後、平成30年度までに得られた速度論選択的KDACアイソザイム阻害剤の薬理作用等を調べる。
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