研究実績の概要 |
29年度に引き続き,(1)グリコシル化反応の出発物質(糖供与体)をオキソカルベニウムイオン中間体が生じにくい形状にした,中間体を経ない反応と(2)中間体を生じやすい形状にし,活性化エネルギー低下に伴う反応性や立体選択性の向上を狙った反応を検討した. 代表者の佐々木は,中間体を生じにくい2,6-ラクトン糖供与体やそこから生成するグリコシドの立体配座の詳細な解析を行った.その結果,通常の椅子型配座では,α-グリコシドに大きく寄与するアノマー効果が,2,6-ラクトンではα-,β-グリコシドのいずれ対しても同様に寄与が小さいことを見出した.環酸素の非共有電子対の反応参加が抑えられ,中間体を経ない反応が実現している証左であった.また,グリコシドの立体配座はねじれ舟形であり,通常の椅子型よりも容易にアノマー位の立体配置が決定できることを見出した. 分担者の山田は,中間体を生じやすい3,6-位架橋糖供与体を用いて,完全なα-立体選択的反応を達成し,小さなシクロデキストリン(CD)を合成した.29年度までの検討で,種々の3,6-位架橋糖供与体を用いたグルコシル化反応が,β-面を跨ぐ架橋の立体障害によりα-立体選択的に進行する一方,架橋によりα-面に張り出したO-2位上の保護基が立体障害となり,立体選択性を損ねていることを見出していた.そこで30年度は,架橋基に1,1'-(エタン-1,2-ジイル)ジベンゼン-2,2'-ビス(メチレン)(EDB)基,O-2位保護基に立体的に小さなアリル基を用いて,完全なα-立体選択性を実現した.そして,EDB基による糖6員環の柔軟化と,完全なα-立体選択性を活用し,環状α-1,4’-D-グルコシド(CD)3量体と4量体を合成した.CDとして6-8量体(CD6-CD8)が広く知られる一方で,本研究は,実在性が疑問視されてきたCD3とCD4の存在実証となった.
|