本研究では、錯体分子から有機分子まで様々な酸化還元活性分子の電気化学反応制御と応用に向けて、その遷移状態を実験及び理論の両面から解き明かすことを目的とした研究を行った。 平成30年度は、ヘテロ原子を含む有機小分子について、充放電特性、インピーダンス、CV、GITT測定などを行い、その電気化学特性を詳細に検討した。その結果、分子のHOMOが高く、LUMOが低いほど高い起電力を有することを明らかにするとともに、電解質イオンであるLiイオンが、ある遷移状態を経て有機分子のヘテロ原子に配位することで還元状態が安定することを理論計算より解明し、それによって安定なサイクル特性が実現されることを見出した。この結果は、高性能な有機正極活物質の一般的な設計指針になり得る。なお、本研究では、ホウ素や窒素を含むナノグラフェン分子について、負極特性を調べる研究も行い、電解質イオンが挿入される反応の遷移状態を明らかにするとともに、汎用的負極であるグラファイトよりも大きな容量が得られることを見出した。 一方で、錯体分子系では、ジスルフィド部位含有配位子を含む様々な金属有機構造体(MOF)の電気化学特性やX線吸収微細構造分析による反応機構を検討することによって、これらが、次世代正極材料として注目を集める硫黄の基本骨格であるジスルフィド(S-S)の電気化学反応を可逆に引き起こす系として有望であることを明らかにした。また、理論化学計算によって、このようなMOF中におけるS-S結合の電気化学遷移状態を明らかにし、MOF中に固定されない場合よりもエネルギー的に非常に優位であることを示した。
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