研究課題/領域番号 |
16KT0063
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
安達 基泰 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 上席研究員(定常) (60293958)
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研究分担者 |
森元 聡 九州大学, 薬学研究院, 教授 (60191045)
老川 典夫 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (80233005)
木下 誉富 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90405340)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2020-03-31
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キーワード | 酵素 / 結晶構造解析 / 中性子 |
研究実績の概要 |
酵素(タンパク質)は、高度に進化した分子認識能とダイナミクスによって、複雑な骨格や多様な官能基を有する生理活性物質を効果的に合成する分子である。酵素の触媒機構の解明は、生命科学研究の発展と深く関わるだけでなく、複雑な化学構造をもった有用化合物を効率よく合成する産業技術の開発にも繋がる。本提案では、学術・産業の両面から有用な生合成経路を担うモデル酵素を研究対象として選択し、その反応中間体や遷移状態アナログ複合体の中性子結晶構造解析により、酵素の複雑で巧妙な反応触媒機構を解明する。また得られた知見を有用化合物の創製に資することを目的とする。 1、植物二次代謝化合物合成酵素の反応機構の解明に向けて、ポリケタイド合成酵素(PKS)の反応中間体の捕捉を目標に研究を進めている。本年度は、昨年と同様に、X線結晶構造解析での分解能の向上を試みたが、十分な結果は得られなかった。そのため、次の試料2および試料3に注力した。 2、アミノ酸ラセマーゼについて、1.0Åという高い分解能のX線結晶構造解析によって、中間体を補足していることを確認し、さらに中性子結晶構造解析のために、大型結晶の作製に取り組んだ。その結果、体積約1x1x1mm以上の大型の結晶が得られ、予備的な中性子回折実験で、2Åを超える十分な分解能の回折イメージを得た。 3、創薬標的酵素においては、Ser/Thrキナーゼに注力した。阻害剤複合体の中性子解析に向けて複合体結晶を作製し、ドイツの研究用原子炉施設を利用して、解析に十分な中性子回折データを収集した。さらに、X線の回折データを収集し、X線と中性子の両方のデータを用いた同時精密化を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究での成果創出のためには、水素原子の直接観測がポイントであり、中性子構造解析が一つの重要なステップとなる。アミノ酸ラセマーゼについては、中間体の構造解析に必要な結晶を作製することができたため、解析の目途が付いた。論文としては、ヒスチジンラセマーゼの構造解析に世界で初めて成功したことを報告した。また、キナーゼに関しては、基礎データとなるリガンドフリー型の中性子構造解析の論文を発表するに至った。さらに、阻害剤複合体の中性子結晶構造解析に成功している。全4年間の計画の中で後半の2年間になるが、最初の2年間で構築した試料調製系を土台として、中性子結晶構造解析も着実に進んでおり、十分な達成度で進捗していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
1、昨年度に引き続き、植物二次代謝化合物合成酵素の反応機構の解明に向けて、X線結晶構造解析での分解能の向上が鍵となるため、質の高い結晶の取得に取り組む。その後、基質などのリガンドを結合させた複合体結晶の作製に取り組み、X線結晶構造解析によってPKSの反応中間体の捕捉に注力する。 2、アミノ酸ラセマーゼについては、得られている中間体の大型結晶を使い、中性子結晶構造解析のためのフルデータを収集し、立体構造を決定する。さらに、中間体の構造から、補酵素であるビタミンB2と酵素によって制御される酵素反応機構を考察する。 3、創薬標的酵素においては、Ser/Thrキナーゼを引き続き対象とする。阻害剤複合体の中性子結晶構造解析をすすめるとともに、量子化学計算に着手し、反応中間体と阻害剤の設計に重要な構造情報に関する知見の取得を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
試料調製実験の一部を次年度に持ち越した。次年度、物品費として使用する。
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