研究課題/領域番号 |
16KT0066
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
金岡 雅浩 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (10467277)
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研究分担者 |
工藤 洋 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (10291569)
田中 健太 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (80512467)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2020-03-31
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キーワード | 環境応答 / 気孔 / 異質倍数体 / ホメオログ |
研究実績の概要 |
外部環境の変化を受けて形態・生理的形質を適切に制御することは、生物の生存において必須の生命現象である。植物は環境の大きな変化に対して移動により逃れることができないため、ダイナミックな形態変化により環境に適応する。そのため、環境に応答した遺伝子発現と発生システムの変化を明らかにすることは、植物の生存戦略を理解する上で重要な課題である。2種類の両親種の融合により誕生した異質倍数体種には、両親種より幅広い環境に生育する例が見られるが、具体的にどのような形質の変化が適応に関与するかについての研究例は少ない。本研究は、異質倍数体植物はどのような発生メカニズムで環境に応じた表現型の可塑性を示すのか、どのようなゲノム構造や遺伝子発現を示す個体が高い適応度を示すことで選抜されて次世代を残すのかを明らかにすることを目的としている。そのために、特に気孔の発生に注目して解析を行った。 異質倍数体種Cardamine flexuosaのRNA-seqにより得られたreadを、両親種であるC. amara、C. hirsuta由来のSNPを指標に分類し、両ホメオログごとの発現比を求めた。さらにGene Ontology解析により、発現が変動する遺伝子の特徴付けをおこなった。その結果、細胞壁合成関係の遺伝子などが大きく変動していることが分かった。 また、実験室環境だけでなく、野外の自生植物においても同様の遺伝子発現の変化が見られるか調べるため、自生地においてサンプリングを行った。現在植物の表現型を解析しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Gene Ontology解析により、発現が変動する遺伝子がどのような特徴をもつかが明らかになった。この成果は今後遺伝子の機能解析や植物の表現型解析を進めるにあたり参考になる。さらに、今年度サンプリングした野外自生個体と研究室環境の個体との比較をすることにより、環境応答に関わる普遍的なメカニズムが明らかになると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
(1)すでに得られている観察結果を基に、それぞれの環境で見られる気孔の表現型やその可塑性を説明するにはどのような細胞分裂パターン(分裂回数・分裂方向等)や細胞運命の決定様式(幹細胞性を失うタイミング)が必要か、数理モデルを構築することにより理解することを目指す。 (2)特定の水環境で特定の親由来のアリルが選択的に発現するといった、興味深い発現様式を示す遺伝子について、その発現パターンや機能の解析をする。すでに得られている実験室環境下でのRNA-seq解析の結果に加え、自然集団や移植実験で適応度の高い個体でもRNA-seqを行い、共通する遺伝子群を上記のモデル解析で示唆された発生段階の各過程を調節する候補遺伝子として選ぶ。さらに、候補遺伝子のうち1つの親種由来のアリルを別の親種の植物に導入して、その遺伝子座のみ異質倍数体植物と同様に2種類のアリルが共存するような植物を作製する。その植物の表現型を観察し、異質倍数体種で見られた表現型に変わるか、確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は本研究をサポートする技術補佐員を雇用する予定であったが、適任者が見つからなかったために雇用を見送った。また、遺伝子発現解析については、データ取得後の解析を主に行った。コンピューター上でできる作業のため、消耗品は予想以上に必要としなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度より新たに研究員を雇用する予定で、その費用に充てる。
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