研究課題
遺伝子発現は、親和性が弱い相互作用によって担われているが、細胞内では、特定の構造や足場(scaffold)に必要な因子が集積化する事で、効率的に反応が進んでいる。本研究では、その分子機構理解の為に、DNAナノ構造(DNA origami)のナノメートル精度の分子配置技術を用いて、遺伝子発現機構のナノ反応場の再構成と解析を目的としている。我々は、第一歩として、DNAナノ構造上に転写酵素(T7 RNA polymerase、以下T7 RNAP)と基質遺伝子を集積化した"転写ナノチップ"を構築し、その性質を探ってきた。DNAナノ構造では、分子の固定場所をナノメートル精度で設計可能であるので、酵素(RNAP)と基質(2本鎖DNA)間の分子間距離を自在に設計することが可能である。また、基質遺伝子上の酵素認識部位(転写の場合はプロモーター配列)と酵素の衝突頻度は、分子間距離と、基質DNAの物理化学的性質に依存するので、分子間距離を制御する事で、転写活性の合理設計を実現した。更に、転写ナノチップでは、溶液を漂う遺伝子を転写しにくい一方、チップ上に集積化された遺伝子は効率良く転写する事が明らかになった(直交性)。この性質は、転写チップ間のクロストークが少ない事を示唆するので、転写ナノチップを組合わせた遺伝子回路構築に有利であった。また、油中水滴を用いた実験から、転写ナノチップは1チップレベルで動作可能であり、活性も十分高かった。そこで、小さなRNA(miRNA)に反応するセンサーを更に転写ナノチップに組み込んだ所、外部シグナルに応答可能であり、また、転写ナノチップを組み合わせる事で遺伝子回路を構築できる事が明らかになった。更に転写ナノチップは、ゼブラフィッシュの初期胚で機能した事から、細胞や個体の運命制御に応用可能であると期待される。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
Nature Nanotechnology
巻: 13 ページ: 933-940
10.1038/s41565-018-0202-3
Molecular Cell
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