研究課題/領域番号 |
16KT0070
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 求 京都大学, 高等研究院, 客員教授 (00706814)
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研究分担者 |
鈴木 量 京都大学, 医学研究科, 特定研究員 (10768071)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞集団運動 / 力場計測 / 対称性の破れ |
研究実績の概要 |
胚の球形から桿形への変形の原動力となる脊索中胚葉の頭尾方向への伸長運動を個別細胞の線形総和ではなくシステムとして統合的にとらえ、その集団的細胞運動の基本原理に迫るため、アフリカツメガエル胚に注目した。原腸形成後に脊索原基の伸長を統合的に理解するため、硬さを自在に制御することのできる材料を開発し、①自発運動する胚葉システムが生み出す局所的な力場を牽引力顕微鏡により精密計測、②組織形成の過程における細胞骨格の対称性の破れを数理的に解析、③外的摂動(刺激応答材料やloss of function)に対する中胚葉の動態、をシステム生物学手法で解明する。
本年度の実績としてはツメガエル飼育やその遺伝子操作に必要な実験体制を整えつつ、(a) 化学架橋と可逆的な超分子(ホストーゲスト分子)架橋密度の割合など硬さを自在に制御可能なゲル基板の更なる最適化 (b) 独自にデザインした二軸組織牽引・圧縮装置の実用化に向けた調整や培地交換の流路系といったハードウェアの開発と最適化、そして(c)細胞骨格の配向秩序変数のその場解析や牽引力顕微鏡の力場解析プラットフォームをさらに進化させた。(a)については異なる細胞や組織に対応した基板が作成できるようになっており、また(b)については圧縮装置は完成し、現在ライブでイメージングしながら牽引できるよう装置の最終調整を行っている。また(c)については基板硬さの動的変化に対して、大規模変形を行う細胞の例としてC2C12筋芽細胞(Hoerning, Nakahata, … Tanaka, Sci. Rep. (2017))やヒト間葉系幹細胞(Linke, … Suzuki, Tanaka, 論文準備中)を用いて基板変形の力場と細胞骨格の秩序変数の時間発展の追跡に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アフリカツメガエルの飼育と遺伝子操作といった実験を行うために、生物学の基礎を持ったポスドクを雇用しようと、国内外数人の候補者の面接を行ったが採用には至らなかった。この雇用の遅れによって、アフリカツメガエルの飼育施設を高等研究院内に設置する手続きや必要物品の購入が予定より遅れたという経緯がある。昨年12月にようやく連携研究者の上野直人教授(基礎生物学研究所)のもとで学位取得予定であった林健太郎氏(今年3月に学位取得)の研究員としての採用がきまったので、準備を兼ねてすでにH29年度から分担研究者(鈴木量)と飼育施設の立ち上げの計画を立て、H30年度から本格的に飼育施設を確立する。
物理学を専門とする研究代表と分担研究者(鈴木量)が中心となって、(a) 化学架橋と可逆的な超分子(ホストーゲスト分子)架橋密度の割合など硬さを自在に制御可能なゲル基板の更なる最適化 (b) 独自にデザインした二軸組織牽引・圧縮装置の実用化に向けた調整や培地交換の流路系といったハードウェアの開発と最適化、そして(c)細胞骨格の配向秩序変数のその場解析や牽引力顕微鏡の力場解析プラットフォームといった物理学的な道具立て(実験系、装置、解析プラットフォーム)のほとんどを確立した。C2C12筋芽細胞(Hoerning, Nakahata, … Tanaka, Sci. Rep. (2017))やヒト間葉系幹細胞(Linke, …Suzuki, Tanaka, 論文準備中)を用いた予備的な実験からもすでに目覚ましい成果が上がりつつあるので、総体的にはおおむね順調に進捗しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
アフリカツメガエルの形態発生を専門とする林研究員がH30年4月に研究室に加わることが決まり、ツメガエルを高等研究院で飼育可能な施設の設置見通しが立った。アフリカツメガエルのエキスパートが参入することにより、これまで物理分野で推進してきた成果をもとにさらに研究を加速する体制が整った。林研究員はアフリカツメガエル飼育に必要な物品の発注や手続きを進めながら、すでに分担研究者・鈴木助教とともに刺激応答性ゲルの調整をマスターしたほか、牽引・圧縮装置の最終調整にも積極的に参加しており、飼育環境が整い次第ツメガエル中胚葉を用いた実験を始める。 装置的にはまだ二軸牽引装置に改良が必要であるが、それ以外の道具立てはそろっているので、来年度からはこれまでに得られた成果をフルに活用して中胚葉組織が生み出す力学場を精密計測し、細胞の集団運動に伴う細胞内空間における細胞骨格の配向秩序の動的変化解析する。 さらに、基板材料に硬さを可逆的に調節できるゲルを用い、力学摂動に対する緩和過程を力場と形状動態の二つから追跡する。同様に、機能性を欠損したといった分子的摂動を与えたときの脊索中胚葉の変形や運動のモードを定量計測・解析する。基板の硬さ変形や異方的な変形といったこ物理的な摂動とLoss of Functionのような分子的な摂動を与えた際の組織内での細胞集団運動を物理学的リードアウトを用いて定量化することにより、発生初期における脊索の形態形成を統べる原理に迫る。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)本年度までは、基板材料の力学特性の最適化、二軸圧縮・牽引装置の設計と制作、細胞骨格の秩序変数や牽引力の生み出す力場解析といった物理学的なツールを確立することに主に予算を使用してきた。来年度からは、生物学の専門家で本研究を専属で行う研究員の雇用と、アフリカツメガエルの飼育施設の設置が必要となる。 (使用計画)アフリカツメガエルの形態発生学の専門家である林研究員の人件費、およびアフリカツメガエルを飼育するために必要な設備を中心に来年度予算を使用する。
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