研究課題/領域番号 |
16KT0071
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高橋 淑子 京都大学, 理学研究科, 教授 (10183857)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2021-03-31
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キーワード | 血管 / リモデリング / ニワトリ胚 / 遺伝子導入 / メカノ刺激 |
研究実績の概要 |
本研究では、初期胚における血管ネットワークの形成機構の理解を目指している。血管ネットワークは最終的に体の隅々まで張り巡らされる構造へと成熟し、生命活動の根幹的な役割を担う。血管形成の仕組みは、おおむね次の3つのプロセスを経る。①まず、無秩序な構造の原始血管網が出現する。②次に「血管リモデリング」と呼ばれるダイナミックな形態変化が起こり、③その結果として秩序ある血管パターンが作られる。これら3つの過程のうち、とくに②の血管リモデリングの機構はほぼ未解明のまま残されている。本研究では血管リモデリングの理解に向けて、「血流刺激→細胞による感知と応答(細胞移動など)→血管再編成→血流の更なる変化」という、ミクロからマクロまでを繋ぐ一連のメカノセンシング機構を、構成的に解析することを目的としている。本研究で用いているニワトリ胚は、初期発生の過程において血管形成やリモデリングが2次元平面上で進行するため、優れたモデル動物である。 本年度は、かねてより進めてきた、血管のサブタイプ特異的な遺伝子導入についての成果を原著論文として発表した。さらにこれらの方法を用いて、血管内皮細胞が血流を感知して応答する分子メカニズムの解明にむけた解析を、卵黄動脈を解析モデルとして進めた。すでに、血流が速いところでは内皮細胞が積極的に移動し、逆に血流が遅い領域では、内皮細胞がその形状を変化させて血管壁から離脱するという興味深い現象を見出している。そこでこれらの現象に注目して、血流によるメカニカル刺激の受容と応答に関わる分子群を探索した。さまざまな薬剤添加や発現スクリーニングを進めたところ、メカノ刺激を受容する分子として広く知られるPiezoは本研究の対象となるリモデリングには関係していないことなどがみえてきた。血管リモデリングに関わる新規メカニズムが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
汎用性の高いトランスフェクション試薬を用いた血管内皮サブタイプ特異的な新規遺伝子操作について、原著論文をまとめ発表する際の査読過程において、心臓の形成への影響まで解析することが求められた。しかし本研究は心臓形成は解析の対象外であるため、査読者とのやりとりに想定以上の時間と労力を要した。一方で、これらの独自の方法の機動力は高く、対象とする血管サブタイプ特異的な細胞挙動をライブイメージング解析できるなど、その有効性は高い。事実、血管リモデリングを制御する新しい分子群の探索については順調に進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
すでに述べた血管サブタイプ特異的な遺伝子操作法とさまざまな薬剤処理法を組み合わせて、血流メカノ刺激の受容と応答に関わる分子群の探索を進める。すでに、低分子Gタンパク質などが関与していることを見出しているので、それらが関わるシグナルカスケードを明らかにする。また血管が血流メカノ刺激を受容し応答する過程において、Ca2+の変動がある可能性が浮上している。そこで、Ca2+のライブイメージングについてGCaMP法を用いた解析を進めると同時に、少し感度は下がるがCalbryte 520の使用も組み合わせて、解析の機動力を向上させる。さらに、局所的な血流操作法の効率化を上げるために、これまで使用してきた高粘性溶液の血管内注入法と同時に、レーザー照射による血流阻止法とを組み合わせる。最終的に、初期胚における血管リモデリングの原理に迫る分子メカニズムを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
すでに述べた局所的な遺伝子操作法をまとめた原著論文を投稿・発表する過程において、予想を超えた改訂要求があり、それらのコメントの矛盾点などについてジャーナルエディターとの交渉に予想外の時間を要してしまったため、血管リモデリングに関する分子群のスクリーニング解析が次年度へと繰り越されることになった。しかし、さまざまな薬剤の購入計画などはすでに終了しており、また血管リモデリングの前と後の遺伝子発現をRNAseq解析するためのサンプル調製はほぼ終了しているなど、次年度に向けた準備は順調に進んでいる。
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