研究実績の概要 |
昨年度までに、メダカ大脳(パリウムとサブパリウム)の全新生ニューロンは神経胚期の80個(片半球40個)の神経幹細胞から発生することを発見した。またパリウムでは全ての細胞系譜単位が排他的に配置し、各細胞系譜単位が解剖学的区画(Dm や Dl)の中で小区画を構築することを示し、全ゲノムにおいてオープンクロマチンのピークを比較しクラスタリング解析の結果、オープン・クローズドのクロマチン構造パターンがパリウムの解剖学的領域間で異なることを示唆した。 本年度は、メダカのパリウムがほ乳類のように各区画が機能分化しているか否か調べると目的で、社会的刺激によって活性化する脳領域をパリウムで検索した。メダカのオスとメスのペアーをガラスの仕切り越しに半日お見合いさせると、メスはお見合いした「見知ったオス」を性的パートナーとして選択し、「見知らぬオス」を拒絶する傾向がある(Okuyama et al., 2014)。さらに、メスは「顔」でオスを見分けており,ヒトの心理学実験で有名な「倒立顔効果」がメダカでも生じることを発見した(Wang and Takeuchi, 2017)。このことからメダカにもヒト同様に顔認知に特化した神経機構(顔領域)がパリウムに存在する可能性がある。本研究では、オスの視覚刺激を与えた後に、メダカのメス脳のパリウムにおいて活性化している脳領域を最初期遺伝子のin situ hybridization法によって検索した。オスの視覚情報を与えた結果、細胞系譜単位に対応するパリウム(Dd)の1区画で最初期遺伝子の発現が選択的に検出された。パリウムDL(背側外側)領域は、ほ乳類の海馬に対応し、真骨魚類の高次視覚野は対応すると考えられている。パリウム(Dd)はDl領域と近接しており、ある細胞系譜単位がメダカの顔領域に対応する可能性がある。
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