研究課題
本研究では、近年代表者らが確立した「臓器原基の自律形成」を誘導する基盤技術をヒト臓器形成の構成生物学モデルとして、臓器原基形成を誘導する力学的および細胞生物的要素の時空間構造を解明することを試みている。 本年度は、self-organizationにおける原始 血管叢形成メカニズムの解明を目指した。ヒトiPS由来細胞の時空間局在可視化系の構築: 各種細胞材料の有効な表現型を確定するためには、肝原基内部における空間局在を定量的に把握する必要がある。そこで、3系譜細胞が各々異なる蛍光レポータータンパク質で可視化された遺伝子ノックインヒトiPS細胞を樹立した。TALEN法を用いて、既に樹立済みのAAVS1::EGFP ノックイン iPS細胞に加えて、同プロモーター下に異なる蛍光タンパク質をノックインし、可視化系を確立した 。樹立されたレポーターiPS株は、以降の検証でイメージングによる定量評価に用いた。次にヒトiPS由来ストロマ細胞の分化誘導系を構築した。安定的に原始血管叢を担保するための血管内皮細胞の表現型の特定を目指し、iPS細胞よりすべてのストロマ細胞を分化誘導する技術開発を検討した。そこで、血管内皮細胞(EC)と間葉系細胞(MC)の分化誘導系のブラッシュアップを進め、原始血管作製に有益なiPSC-EC・iPSC-MCの調製方法を確立した。最終的に、iPS由来三種の臓器原基形成実験を行い、原始血管叢形成 を効率的に誘導する条件の解明を試みる。原始血管叢形成におけるダイナミクスについては、ライトシート顕微鏡を用いたin vitro タイムラプスイメージングを用いて詳細な解析を行った。RNAiを用いた機能喪失実験と組み合わせた結果、血管形成を至適化する分子メカニズム、および、最適なマトリクスの選定に成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
計画時点での内容を大幅に越えて、シングル・セル解析等を組み合わせた詳細な検討の結果から、分子レベルでの血管網形成メカニズムを明らかにし、世界最高峰の科学誌であるNature誌への報告を行うことができた。さらに、血管内皮・間葉系細胞の分化誘導条件を確立し、Cell Reports誌に報告することができた。以上のように目覚ましい成果創出ができたことから、当初計画以上に進展しているものと判断した。
今後は、予定通り、ヒト臓器原基構成システムの再設計を継続する。具体的には、これまで明らかにした力・分子の時空間構造を参考に、臓器形成を最適化するために有効な細胞外部環境の再設計を試みる。具体的には、光による架橋・化学修飾反応を駆使して、細胞培養基板の硬さと接着分子密度の空間制御法を用いる。これまでに、アクリルアミドゲルをベースとして、広範囲な硬さ環境 (E = 0.1 kPa~100 kPa)を実現することが可能であることを確認している。また、ゲル表面に様々な細胞接着タンパク質を、密度を制御して化学修飾することも可能である。本細 胞培養基板に、蛍光ラベルされた各種細胞を用いて、様々な硬さ・接着分子の空間条件の培養基質における組織形成過程を、共焦点顕微鏡により追尾定点観察を行う。次に 、誘導された臓器原基の最終機能を向上させるために、効率的な血管形成の誘導に有効な各種細胞材料の表現型 確定を試みる。さらに、in vivoでの機能評価として、免疫不全マウスへ移植することにより適切に機能する血管網や、極性を有した複雑なヒト肝臓を再構築することが可能であるか検討する。本検証で;は研究代表者が得意 とするクラニアルウイントドウ法による観察系を用いて、血液の流入に要する時間、肝特異性の高いヒト血 管網の構築過程、iPS細胞の分化段階などを3次元的に解析する。in vitroおよびin vivo由来組織の品質評価に基づくフィードバック・混合条件の改良を繰り返す。これらを通じ飛躍的な効率で高品質な臓器原基形成を担保する各種細胞条件を特定する。
主な差額は、人件費として想定していた技術補佐員に適切な候補者が見つからなかったこと、サイトカイン試薬等の消耗品においてより安価な試薬を特定することができたこと、などの要因があげられる。次年度については、すでに適切な候補者のめどが立っていることから、予定通りの執行計画を概ね達成可能と考えている。
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