研究実績の概要 |
本研究の目的は、多細胞システムにおける相互作用を最大化するための精度アップポイントを抽出・再設計し、試験管内において高品質な臓器原基(臓器のたね)を誘導するための人為的構成技術を確立することである。具体的には、我々が保持する、ヒトiPS細胞からの立体的なヒト肝臓原基の創出技術(Takebeら,Nature 2013, 2016)をベースとして、より高品質・効率的に原基形成を誘導する内部環境(細胞の質・種類・比率など)、及び、外部環境因子(培養基材の力学的・生化学的特性など)の最適化を目指している。本年度はその中でも、臓器原基の細胞材料の品質に着目し、それを細胞膜の流動性から判別・選別する新規手法の開発に取り組んだ。まず、膜の流動性に応答して蛍光波長が変化するプローブを用いると、1)膜硬さの増大をきっかけに、細胞の未分化脱離が始まること、2) 未分化状態で観察される軟らかい膜に特異的に作用する膜物性制御剤が存在することを見出した。3)さらに、この制御剤を用いることで、分化細胞から残存する未分化細胞を効率的に除去し、均質な分化細胞を大量に選別する基盤技術を確立することに成功した。本成果は、分担研究者である埼玉大学・吉川との共著でStem Cell Reports誌に発表した。 また、より複雑な構造を有する臓器原基の誘導を目指し、培養基材の設計にも取り組んだ。具体的には、これまでの均一な硬さ制御基板(Takebeら,Cell Stem Cell 2015.)を更に改良して、より生体内の不均一環境をモデル化した新規基板の開発を進めた(論文投稿中)。以上のような細胞原料側の均質化と、肝臓原基を誘導する培養場の最適化を含む成果により、本研究課題を大幅に進展させることができた。
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