研究課題/領域番号 |
16KT0079
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
横谷 明徳 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 上席研究員(定常) (10354987)
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研究分担者 |
服部 佑哉 東京工業大学, 工学院, 助教 (30709803)
今岡 達彦 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 放射線影響研究部, チームリーダー(定常) (40356134)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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キーワード | 非線形細胞応答 / 放射線ストレス / 放射線適応応答 / PKCa / MAPKa / フィードバック / カルシウム振動 / 数理モデル |
研究実績の概要 |
本研究では、放射線ストレスに応答する細胞及び細胞集団を取り上げ、“生命らしさ”を特徴づける非線形な生体応答が現れるメカニズムの解明を目指す。本年度は、低線量の放射線ストレスを受けた細胞が、その後の高線量照射に対して抵抗性を持つ、いわゆる放射線適応応答現象に着目しそのモデル化に着手した。同時にモデル計算に必要なパラメータを取得するための、実験系の構築も試みた。放射線適応応答の誘導には、低線量前照射に至適線量が、また前照射の後の高線量照射のタイミングに至適時間があるり、PKC、PLC及びp38MAPKが関与するポジティブフィードバックの存在が示唆されている。さらに、上皮成長因子受容体(IP3)およびCa2+も、応答に関与する可能性が指摘されている。IP3及びCa2+が小胞体膜上に存在するIP3受容体へ結合することにより、負のフィードバックがかかり、細胞内にCa2+濃度のオシレーションが生じることが、過去に神経細胞を用いた研究において報告されている。実験ではまず放射線適応応答の誘導の有無を、X線照射したマウス細胞(M5S)に対する微小核形成頻度測定法により検定する手法を確立した。さらに、Ca2+イオンの濃度変化を蛍光プローブ(Fluo-4)によりライブセル測定したところ、X線照射した場合は非照射(コントロール)とは明確に異なる濃度変化が現れ、またオシレーションも観測された。これをフーリエ解析したところ、低線量照射と高線量照射では振動帯域が異なることを見出した。一方、PKC、PLC及びp38MAPKのポジティブフィードバック回路に着目し、放射線量をフィードバック回路への入力パラメータとする放射線適応応答の、細胞内シグナリング数理モデルを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
放射線適応応答現象は、福島で問題となっている低線量リスク評価や放射線の医学利用の分野における基礎的な知見を与えることが期待される。本研究の開始時には想定していなかったが、放射線ストレスに応答する細胞及び細胞集団の非線形現象であり、本研究対象として重要なターゲットと考えられ本年度新たに研究に着手した。モデルに必要なパラメータを取得するための実験系の確立に相応の時間がかかったものの、年度後半には微小核形成頻度の測定やCa2+オシレーションのライブセル観察に関してデータを得る見込みを立てることができた。またこれらの実験データに呼応した数理モデルも新たに構築を開始し、プロトタイプモデルを構築することができた。
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今後の研究の推進方策 |
放射線適応応答の実験パラメータの蓄積と、これを数理モデルにフィードバックすることで、最終的な放射線適応応答モデルを目指す。そのために、放射線照射時のCa2+オシレーションの線量依存性の詳細な解析を進める。またモデルについては、Ca2+オシレーションの制御を受けると予想される、高線量放射線により誘発するDNA2本鎖切断の修復プロセスまで考慮したモデルの構築を目指す。DNA修復に関わるタンパク質の活性度合いを連続値で表した微分方程式モデルと,活性をON/OFFの2値で表したブーリアンモデルを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文の投稿を予定し英文校正作業として経費を計上していたが、さらに追加の実験データが必要であると判断し、投稿を延期した。そのために英文校正は、次年度に発注する予定である。
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