研究課題
現代的民法学・国際的人権法との交錯領域として、戦争補償・先住民族補償の問題の急浮上を受けて、過去の不正義補償の事例・理論研究を深化させ、とくにアイヌ民族その他世界各地の先住民族問題について多面的に比較法考察を行う(所有問題以外に、環境的不正義、同化主義克服、多文化主義社会の形成、教育・言語・文化遺産保護など)。この点で、2007年の国連の先住民族の権利宣言の特別報告者のアナヤ教授をはじめとする先住民族研究者が結集するコロラド大学での長期研究を基盤として、米加先住民族、北欧のサーミ民族、オセアニアのアボリジニ、マオリ族、また東アジア(台湾)や東南アジア(タイ、フィリピンなど)の先住民族との比較研究を充実させることができ、わが国のアイヌ法政策が、「世界標準」からは遅れたもので、未だ課題が多いことを明らかにすることができた。他方で、冷戦期終焉後大国相互の戦争構造は変質し、国際的民族紛争は多極化し、広範な移民・難民問題を生起させている。補償法は、理論的にアファーマティブ・アクションなどの財の再配分政策と見うるが(南アのポストアパルトヘイト政策、奴隷補償など)、国際的には、《各国の統治権・市民権(公民権)に即した社会保障などの再分配政策と、グローバルな国際人権法上のボーダーレスの人権保護政策との緊張関係》が高まっている。アメリカ・中近東の移民・難民問題なども踏まえた、この理論的移民ディレンマ問題を深めるに際しては、移民研究の拠点であるマイアミ大学での長期研究を踏まえて、アメリカ移民法に焦点を当て、他方で、シリア難民を契機とするトルコ、ヨーロッパの難民受入状況との比較考察を試みた。特にトランプ政権になり、非正規移民問題は緊迫化しており、原理的に、人権保護のグローバル化要請と国内的な再分配要請、そして、ポスト・ウェストファリア、脱植民地主義時代の越境問題の規制の方途を探ることができた。
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