研究課題/領域番号 |
16KT0092
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
勝尾 裕子 学習院大学, 経済学部, 教授 (70327310)
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研究分担者 |
和田 哲夫 学習院大学, 経済学部, 教授 (10327314)
GARCIA Clemence 学習院大学, 国際社会科学部, 准教授 (60440179)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2021-03-31
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キーワード | 無形資産 / 特許権 / 利益概念 / 財務報告制度 |
研究実績の概要 |
無形資産の会計制度に関する各国制度比較の研究については、主としてのれんの会計方法に関する各国の財務報告制度の相違に着目し、今年度においては、日本とフランスののれんの償却・非償却の扱いの違いについて理論的に検証し、その成果を公表した。のれん会計に関する財務報告制度の比較検討を行うとともに、無形資産全体に係る財務報告の体系を整理するため、会計基準の概念的な枠組みを定めている、財務報告の概念フレームワークに関する研究についても昨年度に続いて進めた。 具体的には、国際会計基準審議会IASBによって策定された、「財務報告に関する概念フレームワーク」について、そこで採用されている利益概念に関して、経済的所得の概念との関係を検討した。会計利益の基礎概念について、より抽象度の高い概念である経済的所得概念を用いてその相違を詳細に検討したことにより、包括利益と純利益という2つの会計利益の有する性質を、理論的な観点から解明することができた。 得られた研究結果を用いて、IASBによって策定された「財務報告に関する概念フレームワーク」の規定内容における矛盾点や欠落点、概念フレームワークとしての機能の欠如当の問題点についても検討を進めた。これらの研究成果について、ヨーロッパ会計学会(EAA)におけるWorkshop on Accounting Regulationや国際会計研究学会等において報告した。 実証面では、昨年度に明らかになってきたように、各国に出願された特許権の安定性、ひいては経済価値には国際的相互依存が存在することについて、発展的な分析を進めた。医薬関連の研究開発では、世界の多数の国で特許出願され権利化されることが多いが、それらの無形資産価値を各国の法的手続き情報と合わせて分析するための基礎的視角を確立しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
無形資産の会計制度に関する各国制度比較の面では、のれんの財務報告制度について、規則的償却と非償却処理及び減損の併用との会計方法の相違に着目し、のれんの償却処理を導入している日本とは正反対の会計制度が採用されているフランスにおいて、なぜ非償却処理及び減損という会計方法が支持されているのか、その経緯や日仏の違いについて、企業会計の基礎概念まで立ち返って検討を加えた。この研究成果については、学会等で報告するほかワーキングペーパーとして公表した。 また、のれんを含む無形資産に係る財務報告について検討するうえで、それに関する基礎的な枠組みを示すものである、財務報告に関する概念フレームワークについて、主としてIASBによる概念フレームワークを対象として、会計利益の基礎概念に照らして問題点を検討した。この研究成果については、学会等で報告するほか、論文として公表した。 実証面では、昨年度に引き続き多国籍企業の国際特許ポートフォリオデータベースの構築を進め、それによって可能となった分析を順次展開している。日本の特許庁の包括的なデータベースが2019年度初頭に根本的な改訂を受け、テーブル構造やデータフォーマットが刷新されたため、1970年代以降の日本の全特許出願・登録データを取得しなおすとともに、欧米その他の国際特許データを収容するPATSTATデータと一体化したデータベースを構築し直した。これにより、特許審査過程に関する新たな詳細情報が追加的に分析可能になってきている。 上記のように、国際的な会計制度の相違に関する基礎理論分野における検討を進めることができ、また国際的な特許権の束に関する実証的な検討も進められている。そのため、理論および実証の双方の視角において有益な進捗が得られているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
財務報告制度の比較については、今年度までの作業によって、それを包摂する枠組みである「財務報告に関する概念フレームワーク」に関する一定程度の考察が完了し、その一部については既に成果として公表した。来年度は、これらの検討結果の全体について、いくつかのパートに分けたうえでそれぞれに論稿を完成させ、国際学会を含む各学会で報告し、査読付き雑誌に投稿する。また、この研究の全体をまとめた書籍の公刊に向けた準備を開始する。 実証面では、多国籍企業の国際特許データを用いた無形資産のうち、有価証券報告書に開示された医薬品の価値評価を可能にするデータ及び手法を特定し分析する。具体的な医薬品及び特許権を接続するデータベースが特定できたことから、それを利用した医薬品と特許権の審査経過までのデータベース上の接続作業を行って分析する。 来年度においては、無形資産の各国財務報告制度の比較について、のれんの会計方法に着目した研究を、会計基準の基礎的枠組みを定める「財務報告に関する概念フレームワーク」に関する研究成果に基づいて進める。そのうえで、のれんとして財務諸表において開示されている医薬品の特許権の存続期間と、非開示の特許権の存続期間との差異に関する問題点を中心として、理論面の検討から得られた結果と実証との照合に取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、研究目的を達成するために必要な内容の見直しを行った結果、昨年度までに明らかになった課題をより掘り下げるために追加的な検討が必要であることが判明したため、当該追加作業に取り組んだ。具体的には、無形資産に係る財務報告制度に対する基礎的枠組みである、「財務報告に関する概念フレームワーク」を対象として、会計利益の基礎概念に関する研究に加え、のれんの財務報告制度について規則的償却と非償却処理及び減損という会計方法の相違に着目した各国会計制度の比較検討を行った。 その結果、当該研究については予定通り進捗がみられ、一定程度の成果が上がったものの、本研究の対象としている医薬品に関する具体的な特許権に係る課題や問題の所在を特定する段階には至らなかった。 そのため、来年度においては、今年度までに得られた、企業会計の基礎的分野における「財務報告に関する概念フレームワーク」に関する研究成果に基づき、無形資産の財務報告に関する各国企業会計制度の比較研究を進めるとともに、のれんとして開示された医薬品の特許権の存続期間が、非開示対象の他の特許権の存続期間と差異を持つかどうか、という問題点を中心として理論と実証の照合を進める予定である。
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