研究課題/領域番号 |
16KT0098
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
西尾 哲夫 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 教授 (90221473)
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研究分担者 |
齋藤 剛 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (90508912)
相島 葉月 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 准教授 (40622171)
椿原 敦子 龍谷大学, 社会学部, 准教授 (00726086)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2023-03-31
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キーワード | グローバル・コミュニケーション / 中東 / イスラーム |
研究実績の概要 |
本研究ではグローバル化と中東地域の民衆文化に関する以下の研究項目を実施した。 1 「中間アラビア語」による社会空間を接合する言語社会的位相に関しては、(1)先発的グローバル・コミュニケーション空間の言語社会的位相の分析として、「世界文学としてのアラビアンナイト―ガラン版アラジンから考える」『こどもとしょかん』で、文字文学としてのガラン版アラジンがヨーロッパにおいて口承文芸として再受容され、地域性の高いフォークロア文学となっていく過程を検討することで、「世界文学」が創出する「世界文学空間」におけるグルーバルな価値とローカルな在来知が環流する動態を提示した。 2 公共的コミュニケーション空間がグローバルな情報ネットワークに感応する社会空間として機能する社会動員的位相に関しては、(1)『中東・イスラーム世界への30の扉』所収の論考「なぜ日本で中東地域を研究するのか?」で、地球規模の公共的コミュニケーション空間の激変の中で、多元的価値を包摂/排除する形で共創される社会空間の実相を捉え直す「グローバル地域研究」の必要性を説いた。(2)『片倉もとこフィールド調査資料の研究』は、文化資源としての標本資料を現地社会の人びとと協働して次代の文化継承に寄与する社会実践的・超学際的プログラムの研究成果で、半世紀前の片倉もとこ収集資料を文理融合の国際共同研究として実施し、現地社会の人びとと国際的展示等を協働企画した。半世紀前の現地調査資料を学術資源として活用し、現代的技術であるデジタルメディア、地理空間マッピング、および衛星写真などを駆使して半世紀の自然環境と人びとの生活の変容を分析したことに対して高い評価を受ける一方、サウジアラビアでの文化遺産継承の実践の点でも国内外で大きな社会的インパクトを与えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国際共同研究の成果の国際編集による海外出版として、フランスの出版社から『Tetsuo Nishio, Okamoto Naoko, Jun’ichi Oda, Margaret Sironval, Marion Chesnais, et Yo Kaji eds., Catalogue du Fonds Josephe-Charles Mardrus, traducteur des Mille Nuits et une Nuit』を刊行した。関連するすべての資料のデジタル化ならびにカタログ化を完了し、その成果を刊行した。本カタログは、アラビアンナイト研究はもちろんフランス文学研究や文学研究一般に必須の基本文献となるであろう。マルドリュス版はフランス文学をはじめとする文学関係者には絶賛され日本語訳もベストセラーになるほどだが、アラブ文学や中東の専門家からはあまり高い評価を受けてこなかった。大きな理由は、完全なアラビアンナイトとされるカルカッタ第二版やその英訳のバートン版とはまったく内容が異なる上に、底本となったアラビア語原典も不明だからであり、「真正なアラブ文学」の継承とは見做されなかったからである。しかしながら世界文学としてのガラン版アラビアンナイトの後継者は、文学の社会的機能から考えたときに、マルドリュス版と見做すことも可能である。もう一つの理由は、マルドリュスの生涯や、千一夜以外の仕事についての研究が資料不足から進んでいなかったこともある。本研究成果とそれに基づく今後の研究によって、アラブ世界とヨーロッパ世界の文化交流の象徴的存在であるマルドリュスの個人史の解明を通して、地中海地域におけるグローバルな文学空間の実相を捉えられるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
今後も研究方法を継続して課題の解明を図るとともに、研究成果の発信につとめる。 1 「中間アラビア語」による社会空間を接合する言語社会的位相に関しては、(1)先発的なグローバル・コミュニケーション空間の言語社会的位相の分析として、中間アラビア語の文献調査及び中間アラビア語による民衆文学に関する書誌的調査を継続して行う。(2)新生の共通アラビア語の現代的動態の分析として、カイロの都市部中流層の共通アラビア語の調査を継続する。(以上、西尾・中道〔研究協力者〕担当) 2 公共的コミュニケーション空間がグローバルな情報ネットワークに感応する社会空間として機能する社会動員的位相に関しては、(1)公共文化の創発プロセスの分析として、グローバル資源化した世俗文化として移入された空手が公共文化として変容する状況を継続調査する(相島担当)。グローバル化したベリーダンスの調査を行う(西尾担当)。中流層観に関する比較調査をエジプトとモロッコで行う。(齋藤担当)。(2)グローバルな問題に感応して公共的コミュニケーション空間変容の外部要因として働く事例分析として、中東地域と日本のグローバルな知識の還流に関する調査及びイスラモフォビア現象のグローバル化に関する調査を継続する(相島・西尾担当)。アラブ世界の公共的コミュニケーション空間の比較として、国民国家的統合性の高い公共的社会空間を構築してきたイランでの事例分析として、伝統文化の変容を継続して調査し、日本との文化的還流現象に関する調査を継続する(椿原担当)。 海外研究協力者を招聘して国立民族学博物館ならびに人間文化研究機構の「現代中東地域研究事業」との共催で国際シンポジウムを開催する。成果を取りまとめ学会発表や論文執筆を行う。※現在の世界状況に鑑み、上記の海外調査は調査者の安全を考慮し、調査地域や日程を変更する可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 新型コロナウィルスによる世界的な感染状況によって、2021年度に予定していた海外調査が不可能になった。また海外から研究者を招聘し国際シンポジウムを開催する予定であったが中止した。 (使用計画) グローバルな問題に感応して公共的コミュニケーション空間変容の外部要因として働く事例分析にかかる新たな事例研究としての国際シンポジウムを、世界の状況をみながら年度内には開催する。グローバルな問題に感応して公共的コミュニケーション空間変容の外部要因として働く事例として、歴史心性としての旧来の世界認識が、個人空間と制度的システム(国家や共同体)との間で生起するナラティブ・ポリティックスに感応して、いかなるグローバルな地域性を獲得しようとしているかについてモデル化するため、グローバルに往還する文化現象を類型化し、断片的ではあるが地球社会の認知地図を描こうとしてきた従来の研究枠組みを批判的に再検討するために開始する国立民族学博物館の特別研究(代表・西尾哲夫)と連携して研究を深化させる。
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