現在の人工物は,設計時に想定した稼働環境や使用目的に極度に最適化されており,故障や環境変化に対する適応が著しく困難である.この問題解決のため,本研究ではクモヒトデに着目する.クモヒトデは盤と5本の腕からなる棘皮動物であり,外敵に襲われると腕を自ら切断して,残存腕が何本であろうとも非構造的な実世界環境下を自在に逃げ回ることができる.すなわち,クモヒトデには「故障(身体一部の欠損)を許容する,従来の人工物とは本質的に異なる設計原理」が内在している. 本研究では,生物実験,数理モデリング,ロボット実機実験を組み合わせた学際的なアプローチにより,クモヒトデのロコモーションに内在する制御原理の解明を目指した.まず,腕を短く切断した個体について行動観察実験を行った.腕切断時の振る舞いや腕に圧刺激を与えた際の応答などの知見をもとに,自律分散制御に基づく腕間協調の数理モデルを構築し,それを開発したクモヒトデ型ロボットに実装して,行動観察実験を再現することに成功した.さらに,腕を短く切断していない個体について行動観察実験を行い,腕内自由度をいかに協調させているかを観察した.それをもとにこれまでに構築した数理モデルを拡張し,腕間協調と腕内協調が連関した自律分散制御則を提案した.腕に多自由度を有するクモヒトデ型ロボット実機を開発し,実機実験にて制御則の妥当性を確かめた. また,周口神経環を部分的に切断する実験を行い,切断パターンに応じてクモヒトデの進行方向が変化することも明らかにした.現在,この実験結果を説明できる数理モデルを構築し,シミュレーションにて行動観察結果の再現に成功した.
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