研究課題
本研究では,予期せぬ外的要因(センサ故障や環境変化など)及び内的要因(プログラムバグなど)に対して,宇宙機におけるコンピュータシステムを強化するために,宇宙線によるビット反転を利用したプログラム進化を展開し,システム強化を実現する機能設計の確立とその有効性の検証を目指す.その目的達成に向けて平成29年度では,故障に対して強靭なプログラム進化に取り組んだ.特に,センサ類が故障しても目的を達成可能なプログラムを維持する強靭性を「大きく状態を変えつつも目的を達成する(目的"固定"指向型)強靭性」の1つとして捉え,その要素技術を考案し,その有効性を示した.具体的には,プログラム進化手法の一つである遺伝的プログラミングにおいて,あるセンサ情報を用いて目的を達成する“最適プログラム”を獲得するだけでなく,異なるセンサ情報を用いて目的を達成する“準最適プログラム”を同時に獲得する手法の考案に成功した.また,最終年度にはシステム強化を実現する機能を組み込んだ宇宙探査ローバを構築する計画となっているが,昨年度に続き本年度も,計画を前倒してプロタイプを構築し,ローバを搭載したロケットによるサブオービタル(大気圏内)打ち上げ実証実験を実施した.その成果は,日本最大規模の宇宙自律ロボット制御のアマチュア大会である能代宇宙イベントにおいて,能代CanSat大賞を受賞し,日本航空宇宙学会からポスター発表表彰を受けた.さらに,大学宇宙工学コンソーシアム(UNISEC)からも宇宙開発へ向けた活動成果が評価され,ポスター発表賞第1位を獲得した.また,学術的には第61回システム制御情報学会研究発表講演会 (SCI2017)にて招待講演を依頼され,得られた成果を発表した.
2: おおむね順調に進展している
本研究では,システム強化を実現する機能確立を目指すために,平成29年度ではその機能の1つである故障に対して強靭なプログラム進化に取り組んだ.具体的には,センサ故障のためにセンサ値が出力されない,あるいは,想定外のセンサ値が出力されるなどの状況変化が起こった場合,そのセンサを使用しなくても他のセンサを用いることで,元々の目的を達成できるようにプログラムを進化させる機構を探究した.その目的達成のため,本研究では単一評価(想定しているセンサAに基づく評価)に対して“最適なプログラム”の獲得を目指しつつも,同時に他の評価(他のセンサBに基づく評価)に対しても比較的高い評価が得られるような“準最適プログラム”を獲得可能な多峰性遺伝的プログラミングを考案し,その評価をテストベット問題上で行った.さまざまなパラメータをランダムに変更したシミュレーション実験の結果,(i)提案手法で進化したプログラムは,他の評価単体で最適化したプログラムより評価は劣るものの,それなりの高い評価が得られること,(ii)テストベットA(センサAを使った方が高い評価が得られる問題に相当)で獲得した準最適プログラムが,テストベットB(センサBを使った方が高い評価が得られる問題に相当)においてほぼ最適なプログラムとして活用できることを明らかにした.特に,テストベットAはセンサAが“故障する前”の状況に相当し,テストベットBはセンサAが“故障した後”の状況に相当することを考えると,本年度のシミュレーション実験の結果はテストベット問題上ではあるものの,センサが故障したときの影響を削減できる可能性を示しており,故障に対して強靭なプログラム進化に必要な要素技術の考案に成功したと言える.以上より,本研究は計画通り着実に進んでいる.
今後の研究としては,申請書に記載された計画を進めることを基本とする.具体的には,システム強化を実現する4つの目の機能として,目的を変更する可塑的プログラム進化に取り組む.具体的には,異なる目的を持つプログラムへと進化する可塑性を「環境変動に対応して変化する(目的"変更"許容型)可塑性」の1つとして捉え,その機能を探究する.その研究の推進方策としては,平成29年度に確立した故障に対して強靭なプログラム進化を,目的を変更する可塑的プログラム進化へと展開する.そのためには,ベンチマーク問題を通して基礎的な要素技術の有効性を明らかにした平成29年度に対して,平成30年度では宇宙探査ローバでの実ミッションを考慮したプログラムを対象として実応用可能性を検証するだけでなく,各センサによる評価値の最大化/最小化を各目的と捉えると,故障に対する強靭性は異なる目的への可塑性と深い関係があるため,その関係性を利用する.その後,複数の目的を同時に最適化する多目的最適化の技術を遺伝的プログラミングに導入し,環境の変化に対応して柔軟に目的を変更可能なシステム構築を目指す.また,最終年度の評価としては,目的を変更する可塑的プログラム進化の単体評価に加えて,平成28年度と平成29年度に考案してきた,(1)複数のビット反転であるMBUに頑健なプログラム進化,(2)プログラムに内在するヒューマンエラーに柔軟なプログラム進化,(3)センサ類の故障に対して強靭なプログラム進化,(4)本年度考案する進化を統合した機能を組み込んだ宇宙探査ローバのプロタイプを構築し,ローバを搭載したロケットによるサブオービタル(大気圏内)打ち上げ実証実験を実施し,その有効性を評価する.
・理由: 平成28年度に日本に招聘する予定だった研究協力者であるKovacs氏(元ブリストル大学・英国)が平成29年度も体調不良が続き,用意していた招聘費用(旅費や研究費など)を活用できなかったため.・使用計画: 平成28年度と平成29年度の招聘計画を平成30年度で実施することで使用する.
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 8件、 招待講演 1件)
日本航空宇宙学会,航空宇宙技術
巻: Vol. 17 ページ: 69-78
https://doi.org/10.2322/astj.JSASS-D-17-00011
計測自動制御学会論文集
巻: Vol. 54, No. 8 ページ: 640-649
https://doi.org/10.9746/sicetr.54.640
Journal of Robotics and Mechatronics
巻: Vol. 29, No. 5 ページ: pp. 808-818
10.20965/jrm.2017.p0808
巻: Vol. 29, No. 5 ページ: pp. 877-886
10.20965/jrm.2017.p0877