研究課題
骨髄異形成症候群(MDS)は造血幹細胞より発生するクローン性造血器腫瘍であり、貧血・易感染性・出血傾向といった造血機能不全症状を認める高齢者に好発するがんである。抗癌剤に抵抗性であり、一部は急性骨髄性白血病(AML)に進展する治療困難な疾患群である。近年の大規模遺伝子変異解析によって、MDSの遺伝子変異の多くが、エピジェネティック制御因子とRNAスプライシング因子であることが明らかとなった。エピジェネティック制御は、主にDNAシトシンメチル化とヒストンの後天的化学修飾に因り、正常造血幹細胞機能に不可欠である(Int J Hematol 2012)。MDSにおいても、DNA 脱メチル化酵素TET2変異などに伴うエピゲノム異常が、MDS幹細胞発生と病態進展に重要であると認識されている。70歳以上の健常高齢者の約5%にTET2やDNMT3AといったMDSと同様の遺伝子変異を持つクローナル造血が起きていることが報告された(Xie M, et al. Nat Med 2014; Genovese G, et al. N Engl J Med 2014)。ただし、疫学データからも分かる様に、クローナルな造血のごく一部がMDSを発症するのであり、加齢に伴うMDS発症過程の仕組みは依然として不明である。加齢の生物学的意義について、近年の老化モデル生物研究によって、テロメア・酸化ストレス・感染・栄養・代謝など様々な細胞内因性・外因性のシグナル伝達と生体内ネットワークの恒常性破綻が、加齢に伴う疾患発生や病態進展に関与することが認識された。本研究課題において、共同研究者とともに、加齢に伴うMDS発症過程の分子基盤の統合的な理解を目的として、疾患モデルマウスの新規作製とその分子基盤解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
高齢者のクローナル造血だけでなく、MDS幹細胞においてもTET2などエピゲノム制御遺伝子変異が最初期のゲノム異常(いわゆるFounder mutation)であることが、MDS細胞における遺伝子変異のアリル変異体量から推計されている。加齢や環境などの外的因子に依るストレスがMDS発症に十分であるかを、Tet2欠損/野生型造血細胞キメラマウスにて解析しているが明らかなMDS発症の促進効果を認めており、その分子メカニズムの解析を進めている。
外的因子に依るストレスがMDS発症を促進することを、Tet2欠損/野生型造血細胞キメラマウスにて確認しており、今後、そのMDS発症促進の分子メカニズムを解明するために、造血幹細胞の遺伝子発現解析に加えて、新規遺伝子改変マウスとの交配による病因の検証実験をより進める。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件)
Leukemia
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