研究課題
免疫システムは、Thによる正の応答と、Tregによる負の制御のバランスが的確に維持され、恒常性が保たれている。このバランスの破綻は、本研究対象である炎症性疾患を始め、様々な疾患の要因となる。しかし、このバランスの破綻の引き金はどう引かれるか、また、このバランスの崩れはどう増幅され、症状として現れるに至るのかという疑問点に対し、十分な答えは得られていない。本研究は、活性化初期段階の免疫細胞を特異的に標識する新規レポーターマウスを作製し、解析を進めることで、炎症性疾患の発症や自然寛解のメカニズムをステージを追って解明し、ひいては診断マーカーや治療標的の同定を目指す画期的な試みである。前々年度までの研究では、BACトランスジェニックベクターを構築し、レポーターマウス作製に着手した。そして前年度は、作製が完了したレポーターマウス末梢血からリンパ球やマクロファージを単離し、細胞レベルでレポーター分子の発現確認および動作確認を行った。その結果、14系統誕生したレポーターマウスのうち、3系統でレポーター分子の望ましい発現量が確認された。このレポーター分子は生体内イメージング用のルシフェラーゼとFACS解析用のGFPの融合分子であるが、ルシフェラーゼ活性は実にバックグラウンドの数万倍の活性を示し、生体内イメージングで検出できるレベルであることが示された。GFP蛍光の方も、上述3系統でバックグラウンドピークと完全に分離されるレベルの強度であることが確認された。さらに、本レポーター分子は免疫細胞全般で活性化後に一過性の発現を示すNr4a1遺伝子座に組み込んであるが、その発現はNr4a1遺伝子の発現を忠実に再現しており、今後のマウス個体を用いた実験でも活性化初期段階の免疫細胞を特異的に標識することが期待される。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、新規レポーターマウスを作製する段階が最も困難であることが予想されていた。レポーター分子は生体イメージングおよびFACS解析の両方を可能にする前例のないものであり、さらに活性化初期段階免疫細胞をグローバルに標識するレポーターマウスも前例の無い先駆的なものであるからである。従って、本レポーターマウスの作製を完了し、さらに、予想していたものよりもより強くレポーター分子を発現するマウスが作製されたことが確認されたため、本研究は順調に進展していると評価できる。
活性化初期段階免疫細胞を生体イメージングおよびFACSで検出できるレポーターマウスの作製が完了したため、本マウスを用い炎症性疾患モデルの解析を開始する。検討は、以下に示す3種類の炎症性疾患モデルを用いて進める。1. 実験的脳脊髄炎(EAE)による検討:本疾患モデルはヒト多発性硬化症のマウスモデルである。寛解に至るマウス、増悪化を示し死に至るマウスなど、個体によって様々な病態を示すが、その原因は不明である。そこで本研究では、EAEの発症操作を行った後、2-3日置きにルシフェラーゼ基質をマウスに投与し、免疫応答の活性化の場を経時的にモニタリングする。寛解に至るマウス、増悪化を示すマウスで異なったパターンを示した組織が検出された場合は、当該組織から細胞を取得し、GFP蛍光を頼りに活性化免疫細胞を取得する。取得した細胞プールは1細胞に分離し、single cell RNA-seqにより、各細胞の遺伝子発現を解析する。発現解析データは、クラスタリング等を応用することで、活性化細胞を分類する。続いて、分類された各細胞サブセットを個別に解析することで、疾患を寛解もしくは増悪化に導く細胞種を同定する。さらに、同定された細胞種の発現解析データを基に、寛解もしくは増悪化に導く原因分子の同定も試みる。2. 炎症性腸疾患や移植片対宿主病(GvHD)による検討炎症性腸疾患はレポーターマウスから取得したCD4T細胞を免疫不全マウスに移入することで発症させる。GvHDはレポーターマウスから取得した骨髄細胞とT細胞を放射線照射した異系統BALB/cマウスに移入することで発症を誘導する。上述EAEと同じ解析方針で検討を進め、それぞれの疾患の寛解もしくは増悪化に導く免疫応答の場、細胞種、原因分子の同定を目指す。
29年度に生体イメージングに使用するため購入予定であった試薬の購入、および細胞解析の受託解析を30年度4月、5月に変更した。受託解析は既に行っており、試薬の購入も直ぐに行うため、当該金額は使用される予定である。
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International Immunology
巻: 29 ページ: 457-469
10.1093/intimm/dxx060
Nature Communications
巻: 8 ページ: 15338
10.1038/ncomms15338