研究課題
本研究では本邦およびタイの高齢者において虚弱(フレイル:要介護の一歩手前の状態)の医学的評価を実施し、運動機能に加え、うつ・QOLといった心理的健康、栄養・口腔状態、社会的背景との関連を分析している。平成29年度は、前年度に行った量的研究の分析から、タイ・ナコンパトムの高齢者140人において既存の指標で評価した「フレイル」が、日常生活自立度や心理的健康度および社会的活動度との関連していなかったことを受けて、タイの社会的背景において「フレイル」がどのようにとらえられているかを探求した。調査地域内の、異なる社会・経済的背景を持つ3地域においてグループインタビューを実施し、高齢者自身が日常でかかえる困難やフレイル(弱さや困難を感じる時)の自覚について質的な会話分析を行った。また先行の健診において「フレイル」と判定された11人について個別インタビューをおこなった分析から、タイ・ナコンパトム中心地域の特性としてフレイル高齢者が社会的に孤立していないという現状があり、高齢者自身がとらえるフレイルや老いの自覚は他者との関係性により認識されるものであって、身体的な苦痛(足腰の痛みや病気など)が主訴であった日本の地域高齢者とは異なる特徴がみられた。また、タイ・ナコンパトムの地域高齢者においてフレイルを評価し、口腔状況との関連を報告した原著論文が老年医学会の国際誌に採択された。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度は高知県土佐町、タイ・ナコンパトンへの調査を予定通り実施することができ、データ収集も期待したとおりに実施できている。タイの調査データから、1本の原著論文が発表されるなど、研究分担者やタイの現地協力者との連携もとれており、一定の成果があげられている。
平成30年度は、タイ・ナコンパトンにおいてみられた「高齢者のフレイルの多様性」を追求すべく、タイ東北部の農村部でも同様の調査を実施し、生活背景や社会経済的な背景もふまえてより多面的に調査、分析を実施する。日本のフィールドにおいても、高知県土佐町での疫学調査を今年度も実施予定であり、縦断的なデータ解析を行うことでフレイルの健康への影響(運動機能、栄養・口腔状態、うつ・QOL)について分析する。また、収集したデータのまとめと意見交換をを分担者およびタイの現地協力者とともに行い、地域へのフィードバックについても検討していく。
平成29年度は、フレイルとQOLに関連する研究調査を高知県土佐町で実施できなかったため、平成30年8月に実施予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件)
Geriatrics & Gerontology International
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