研究課題/領域番号 |
16KT0127
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
福泉 麗佳 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (00374182)
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研究分担者 |
小林 未知数 京都大学, 理学研究科, 助教 (50433313)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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キーワード | ボース・アインシュタイン凝縮 / 量子渦 / ノイズ |
研究実績の概要 |
量子乱流とは, ボース・アインシュタイン凝縮や超流動のような量子流体で実現する乱流状態であり, 量子化された循環を持つ量子渦の複雑な運動によって構成されるものである. 古典流体では, 渦の定義が曖昧であり, 乱流と渦の間に厳密な関係を与えることは不可能である. 一方で, 量子流体のモデル方程式であるグロス・ピタエフスキー方程式では渦を厳密に定義することができ, 乱流を渦の視点から理解できる. したがって, 本研究ではグロス・ピタエフスキー方程式を通して, 渦の普遍的な性質を数学により解析することが目的である. 平成28年度は, 正の温度を持つグロス・ピタエフスキー方程式に研究の焦点をあてた. 絶対零度での凝縮体の波動関数を表現するグロス・ピタエフスキー方程式については既に数学でも物理でも多くの研究が存在する. しかし現実には少しでも温度が上がったとき凝縮体には何が起こっているのか, 凝縮体と凝縮されずに周辺で運動をしている原子との相互作用はどのようなものか考慮する必要がある. また, 渦生成を観察するために凝縮体を高温度から低温度状態へ急冷させる実験が存在し(急冷させる過程で臨界温度というものがあり, そこで相転移が起こり渦が生成される), その実験で観察される相転移現象について理論物理, 数学により普遍性を見出すことは重要だと考える. さて, 正の温度を持つグロス・ピタエフスキー方程式とは, ノイズと散逸項を伴う非線形シュレディンガー方程式のことである. 今年度の実績としては, まず, 空間一次元でGibbs平衡状態の存在と一意性, 時間無限大での平衡状態への収束を数学的に証明した. また, 数値計算による臨界温度の推測, またその周辺での相転移の性質をユニバーサリティクラスによる分類を用いて考察した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上に述べた平成28年度の研究実績の他に以下の準備も行った. グロス・ピタエフスキー方程式と流体方程式との類似性の探索研究について, 渦なし定常解の線形安定性を確認した. 凝縮体への渦侵入メカニズムについて理論的に考察する前に, 数値スキームを改善し数値的な正確さを追求するため, 量子渦の数値計算の専門家である Ionut Danaila 氏 (Rouen 大学, フランス) を4月に京都へ招聘することになった. 同時に数値計算を効率良く行うための計算機器を購入し, 購入機器による数値計算を可動したところである. 2016年11月東京理科大での「第3回量子渦と非線形波動」にて, 分担・連携研究者それぞれが講演を行い, 研究プロジェクトの課題に対して担当を確認, この先さらにどのような結果を目指すか議論を行った.
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今後の研究の推進方策 |
凝縮体への渦侵入メカニズムを調査するための数値スキームの改善を行う他, グロス・ピタエフスキー方程式と流体方程式との類似性の探索のために, 渦なし定常状態に関する非線形安定性について継続して考察する. 当初研究計画にはなかったが, 漸近安定性を期待する. その後, 微小ノイズ影響下, この定常状態が有限時間で不安定となる確率評価を調べる. さらに, 不安定性の起こる時間が流体を一様並進させる速度にどのように依存するか, 大偏差原理を使って具体的な表示を試みる. 一様並進させる速度が大きいときに量子渦が多数生成され乱流状態になるシミュレーションを, 実験で観察可能な状況に近づけて確認する. 正の温度を持つグロス・ピタエフスキー方程式についての今年度の数学的な研究成果を空間2,3次元に拡張する. 2017年11月あるいは2018年1月, 全体ミーティング「第4回量子渦と非線形波動」を開催し, 得られた結果, その次に発展させる事項について確認予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当研究課題が採択されたのが研究代表者の産休・育休明け直後であったため, このプロジェクトに関わる具体的な外国人招聘や国内・海外出張を今年度は見送ったため.
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次年度使用額の使用計画 |
2017年度4月に量子渦の数値シミュレーションの専門家Ionut Danaila(Universite de Rouen, France), 乱流解析の専門家 Luminita Danailaを招聘している. また,分担者小林は8月末にDanailaの研究所へ赴き, さらに共同研究を進める予定である. 研究代表者は9月にGibbs 平衡状態の数学的結果を拡張すべく Anne de Bouard (Ecole Polytechnique) を訪れる予定である.
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