研究実績の概要 |
量子乱流とは, ボース・アインシュタイン凝縮や超流動のような量子流体で実現する乱流状態であり, 量子化された循環を持つ量子渦の複雑な運動によって構成されるものである. 古典流体では渦の定義が曖昧な一方で, 量子流体のモデル方程式であるグロス・ピタエフスキー方程式では渦を厳密に定義することができ, 乱流を渦の視点から理解できる. 本研究ではグロス・ピタエフスキー方程式を通して, 渦の普遍的な性質を数学により解析することが 目的である. 平成29年度は, 昨年度に続き, 正の温度を持つグロス・ピタエフスキー方程式に研究の焦点をあてた. 絶対零度での凝縮体の波動関数を表現するグロス・ピタエフスキー方程式については既に数学でも物理でも多くの研究が存在する. しかし現実には少しでも温度が上がったとき凝縮体には何が起こっているのか, 凝縮体と凝縮されずに周辺で運動をしている原子との相互作用はどのようなものか考慮する必要がある. また, 渦生成を観察するために凝縮体を高温度から低温度状態へ急冷させる実験が存在し(急冷させる過程で臨界温度というものがあり, そこで相転移が起こり渦が生成される), その実験で観察される相転移現象について理論物理, 数学により普遍性を見出すことは重要だと考える. さて, 正の温度を持つグロス・ピタエフスキー方程式とは, ノイズと散逸項を伴う非線形シュレディンガー方程式のことである. 今年度は, 昨年度の 空間一次元で解の一意大域存在, 時間無限大での解分布の平衡状態への収束の数学的証明を論文にまとめ投稿した. さらに, 解の大域存在の証明中で, 初期条件にGibbs 測度に関して確率1の集合に属すという条件が必要であったが, 推移確率の Strong Feller 性を用いることによって, すべての初期条件に対し大域的であることを証明するのに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上に述べた平成29年度の研究実績の他に以下の準備も行ったため. (最終年度に結果として公表することを目指している.) 凝縮体への渦侵入メカニズムについて理論的に考察する前に, 数値スキームを改善し数値的な正確さを追求するため, 分担者小林が量子渦の数値計算の専門家である Ionut Danaila 氏 (Rouen 大学, フランス) を訪れ, Danaila氏の薦めるスキームでシミュレーションを行った. 2018年1月東京理科大での「第4回量子渦と非線形波動」にて, 分担・連携研究者が講演を行い, この先さらにどのような結果を目標とするか議論を行った. 代表者は de Bouard, Debussche との2次元, 3次元空間における正の温度を持つグロス・ピタエフスキー方程式に関する研究を進行させている.
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今後の研究の推進方策 |
凝縮体への渦侵入メカニズムを調査するための数値スキームを継続研究する. 正の温度を持つグロス・ピタエフスキー方程式についての今年度の数学的な研究成果を空間2,3次元に拡張し, 発表する. 2018年秋または冬に, 全体ミーティング「第5回量子渦と非線形波動」を開催し, 得られた結果, その次に発展させる事項について確認予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年1月に東京理科大学で開催した研究会「第4回量子渦と非線形波動」に招聘予定であった外国人研究者2人の来日が急遽中止となったため次年度使用額が生じた.その使用計画として, 分担者小林は10月にDanaila(Rouen)の研究所へ赴き, さらに共同研究を進める予定である. 研究代表者は7月 にGibbs 平衡状態について高次元へ拡張するため de Bouard (Ecole Polytechnique) を訪れる予定である. さらに, 星野壮登氏(九州大学) を5月に招聘し議論する予定である.
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