研究課題/領域番号 |
16KT0128
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高木 泉 東北大学, 理学研究科, 名誉教授 (40154744)
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研究分担者 |
今井 正幸 東北大学, 理学研究科, 教授 (60251485)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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キーワード | ベシクルの形態変換 / 面積差弾性モデル / Willmore 汎函数 / 幾何学的変分問題 / 束縛条件附き変分問題 |
研究実績の概要 |
疎水性の部分と親水性の部分が一つの分子内に共存するような分子が集まり,疎水部同士が接して親水性の部分が外部に面する二層膜をつくる.その二層膜が閉曲面を形成してできたものがベシクル(嚢泡)である.これは,細胞膜のモデルとして生物学的にも非常に興味ぶかいものである.赤血球膜はそれが包む内部と外部の液体の浸透圧差に依存して,その形状が変化する.ベシクルもやはり浸透圧差を変えることにより,その曲面の形状が変わり,赤血球膜で観察される形状をほぼ同様に実現することができる.また,ベシクル同士の接着や融合が起るだけではなく,一つのベシクルからもう一つのベシクルが発芽することも観察されている.このような複雑な形態変換や変形のダイナミクスを数学的に定式化し,より定量的な扱いを可能にすることが本研究の目指すところである. 本年度は,準備としてまず最も基本的な単一ベシクルの形態変換を記述する数理モデルを厳密に論じる枠組みを設定することに取組んだ.数学的には,Willmore汎函数として知られている平均曲率の平方積分に面積差弾性エネルギーと呼ばれる量を加えて定められる汎函数に対する(体積と表面積が一定という制約条件下での)幾何学的変分問題として定式化される.面積差弾性エネルギーは,平均曲率の積分から定数を減じたものの平方で表される.Euler-Lagrange 方程式の導出を試みた.数値的解法に関しては,既知の結果の整理にとどまった. なお,8月に研究チーム立ち上げにあたり,一日ワークショップを開き,問題点の洗い出しなどを行った.また,2月に反応拡散系の専門家によるパターン形成の研究集会を開いた.多成分のベシクルの形態変換は,曲面上の反応拡散系が生成するパターンによって制御されるものと考えられるので,その方面の研究情報を得るためである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初から今年度は準備期間として位置づけていたが,少なくとも,幾何学的変分問題を取扱う数学的枠組み(函数空間の設定など)を完成させる心づもりでいた.残念ながら,問題が予想以上の複雑さを含んでいたため,そこまで至らなかった.
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今後の研究の推進方策 |
まずは,本研究課題の中心である面積差弾性モデルを取扱うための理論的枠組みの構築の問題に集中することにする.以前束縛条件附き変分問題として定式化される赤血球膜の形態変換を研究した経験を踏まえて,本問題との相違点を詳細に点検して行く.それが解決すれば,数値的解法の開発など具体的な作業を始められる. なお,場合によっては数値的方法の専門家を研究組織に追加するなどし,遅れを挽回する方策を講じたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
理論的研究の進捗状況が予定よりも遅れてしまったため,実験との照合を開始することができなかった.また,当初海外研究協力者(ドイツ在住)を訪問する計画であったが.先方の都合が急に悪くなったため,中止せざるを得なかった.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度前半までには,理論的枠組みの構築が完成し,数値解析等の方法で具体的な予想を立てる準備が整う予定である.理論的予想と実験結果との照合を次年度後半には本格的に始めることができると思う.その費用の一部に今年度の未使用分を充てる. 9月に訪欧し,本研究に密接な関係をもつ何人かの専門家と議論し,情報交換する計画である.その旅費に今年度の未使用分を充てることにする.
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