物質的構造としての脳を探索する技術として、質量顕微鏡法(Imaging Mass Spectrometry:IMS)が注目を集めている。IMS を試料として切り出した脳切片に用いると、各分子が脳のどの部位にどれだけの量だけ存在するのかに関する強度分布が脳切片上の2次元画像として表示される。IMS の技術では、一枚の脳切片から数万個オーダーのスポット数と数万オーダーの種類の分子が計測されるため膨大な量のデータが発生する。 本研究では、様々な生体試料から計測されるIMSイメージングデータに対して(非線形の)多変量解析法に基づく次元縮約などの統計的機械学習手法を適用することにより、遺伝子改変や経年変化に伴って脳内の物質環境環境がどのように変化するのか明らかにし、神経変性疾患に関与する分子種の発見を目指すものであった。 本年度では、IMSイメージングデータからの特徴抽出として計算トポロジーの一手法であるパーシステントダイアグラムに着目し、t-SNEやIsomapなどの多様体学習を適用して遺伝子ノックアウトマウスと正常脳マウスの脳構造の差異を調査した。複数個体のマウスの脳切片のt-SNEマップを比較したところ、まず灰白質・白質・切片試料に塗布するマトリクスに関与する物質と大きく3分類され、さらに、その中で複数の特徴的なクラスター成分に分かれることがわかった。また、野生型とノックアウト型にも有意な差が現れる物質も存在することがわかった。しかし、個体数を増やして調査したもののコンシステントな結論が得られなかったため、さらに別の個体の脳切片資料に対して新たに解析を行うことにした。また、脳構造の経年変化(老化)を調べるため、若年・成体・老年マウスの脳切片資料から計測したイメージングデータが研究分担者から新たに提供された。本研究は終了するが以上の研究を継続し、論文執筆などを今後も進める。
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