自然界に見られる多くの現象は、階層構造を有している。生命現象においては、細胞が集まり組織や器官となり、それらの集合が個体を形成する。ミクロの情報から、予想できない振る舞いがマクロに現れることが認識されるようになり、その理解には、異なる階層をつなぐ新たな手法の確立が必要となっている。 本研究では、数理モデルを用いてよく研究されてきた大腸菌のコロニーパターンに焦点を当て、大腸菌個々のミクロな振る舞いとマクロな大腸菌密度が作り出すコロニーパターンとの関係を調べることを目的としている。 最終年度に実施した研究の成果として、大腸菌個々のミクロな振る舞いを記述するランダムウォークに基づくミクロモデルを構築し、ミクロモデルの粒子を増やしていったときに考えられる粒子密度の振る舞いと、対応するマクロモデルである偏微分方程式モデルの解の振る舞いとの比較検討を行った。結果として、ミクロモデルの粒子数が数千程度の少ない時は、マクロモデルの解の振る舞いとは全く異なる状況が観察された。一方、粒子数を増やして数万程度のある程度多数の粒子の振る舞いはマクロモデルの解の振る舞いと類似していることがわかった。粒子数が数千程度ではマクロモデルの解を表現できないことが示唆されたことは成果として重要であると考えている。実際の大腸菌のコロニーパターンにおいても、一つのコロニーを構成する大腸菌の個数は数万程度と見積もられており、この点からもミクロモデルの粒子数は少なくとも数万程度必要であることが示唆される。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果としては、大腸菌のコロニーパターンを記述したマクロモデルの研究および、マクロな大腸菌のコロニーパターンと大腸菌個々の振る舞いを記述したミクロモデルの関係性について、今後さらに研究を進める点も新たに現れたが、ある程度明らかにできたと考えている。
|