本研究の目的は、幹細胞の遺伝子発現のゆらぎを1細胞レベルで記述し理解することであり、内在的ノイズ・外在的ノイズのコンセプトに基づいた数理モデル化と実際の実験データを組み合わせるところにその新しさがある。文献にもとづく調査や既存の装置を複数種類試行した結果から、数理モデリングに必要な数の細胞を、実行可能な研究費用で得るためには、既存の装置の単純な改良では困難であり、より良い新規の装置を開発する必要が生じた。研究分担者の創意工夫により、その開発に成功し、幹細胞を用いてパイロットデータを得ることができた。研究分担者はその結果を、シンガポールで開催された国際学会 Cell Symposia (Single Cells: Technology to Biology)でポスター発表した他、BD主催のイベントでも解析結果を口頭で発表する機会を得た。補助事業期間を1年延長し、研究代表者はLAVENDER法を論文化および公表した(Nakamura et al. "LAVENDER: latent axes discovery from multiple cytometry samples with non-parametric divergence estimation and multidimensional scaling reconstruction" doi: https://doi.org/10.1101/673434)。また、研究分担者は引き続き、幹細胞を用いたデータの解析をおしすすめ、論文化のための議論を重ねた。さらに、研究室の学部生の協力を得て、近年開発・公表された1分子RNA FISH の公開データを解析し、1細胞レベルでの遺伝子発現のゆらぎに関する理解を深めた。この結果はさらに解析を進め、後日論文として公表予定である。
|