①南三陸町志津川湾において,浮遊性粒状有機物の各サイズ画分の化学的組成(脂肪酸組成,生元素安定同位体比等)の季節変動を調査した.その結果,粒子量とそのサイズ分布は季節で大きく変動し,基本的に外洋における粒子濃度や化学組成に連動して湾内のそれも変動した.また,サイズ画分間で脂肪酸組成が異なった.一次生産者の種別(微細藻,細菌等)の存在割合が脂肪酸組成の時空間変動を支配していると考えられた. ②栄養塩負荷と水温上昇の組み合わせに対する各サイズ画分粒子の生産性の応答を屋内実験で検討した.栄養塩添加系では特に大サイズ画分でEPAが顕著に上昇し珪藻によると考えられた.栄養塩添加と水温上昇の系では,小サイズ画分のリノール酸・リノレン酸の生産が顕著であり藍藻類との関連も示唆された.これらより,粒状有機物のサイズ画分ごとの化学組成,時空間変動特性,環境変動への応答特性が整理された. ③カキ養殖場内・外で,水深方向への浮遊性粒状有機物の濃度や化学組成さらに酸素消費活性を調査した.水深大きい場および養殖場内で粒状有機物の脂肪酸含有量や酸素消費活性が低下しており,分解が進行しているためと考えられた.水塊あたりの酸素消費速度はPOC濃度と有意な関係を示さず,粒状有機物の質・組成がその酸素消費活性を強く支配していた.分解実験では,藻類由来のマーカーであるPUFAが高い分解性を示し,酸素消費と正の関係があった. ④無給餌垂下式養殖が盛んな志津川湾での一連の調査・実験から,餌料源としての浮遊性粒状有機物の動態に関する知見が集積された.粒子の脂肪酸組成はその生物的起源だけではなく生産・分解活性とも強く関連付けられた.一部必須脂肪酸と養殖生物の生長には正の関係が報告されており,今後脂肪酸動態の視点から粒状有機物動態をモデル化することで,粒子動態のみならず養殖生物の生産性をより高い精度で評価できることが期待される.
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