研究課題/領域番号 |
16KT0147
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
門田 有希 岡山大学, 環境生命科学研究科, 助教 (30646089)
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研究分担者 |
横田 健治 東京農業大学, 応用生物科学部, 准教授 (80349810)
田淵 宏朗 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 九州沖縄農業研究センター, 上級研究員 (10355571)
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研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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キーワード | サツマイモ / 16Sメタゲノム / 土壌 / 病害 / 線虫 / 菌叢 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、サツマイモの重要病害(立枯病)および線虫害が土壌に及ぼす影響を調査し、有効な病害土壌診断バイオマーカーを開発することである。これら病害・線虫害は作物の収量、外観品質に重大な被害をもたらす。しかし、サツマイモは遺伝的に複雑であり、抵抗性品種の育成は進んでいない。また、有害線虫および土壌病害の発生・抑制には土壌微生物相が大きく影響することが示唆されているが、科学的な知見は少ない。そこで本研究では、16Sメタゲノム解析を行い、ネコブセンチュウおよび立枯病発病・非発病土壌における微生物構成を網羅的に調査する。初年度には、国内複数箇所から土壌サンプルを収集し、16Sメタゲノム解析を行った。立枯病検定用土壌としては徳島県の発病圃場(徳島県名西郡)とクロルピクリンで土壌消毒を行い立枯病の発生を抑制した非発病圃場、線虫検定用土壌としては発病圃場(茨城県つくば市)と隣接する非発病圃場からそれぞれサンプリングを行った。これら土壌サンプルについて、ISOIL Beads Beating kit(ニッポンジーン社)やPowerSoil DNA Isolation kit(MO-BIO)を使用し、DNA抽出を行った。得られたDNAを用い、16S rRNA遺伝子のV1-V2領域とV3-V4領域を増幅するよう設計したプライマーによりPCR増幅し、MiSeqシーケンス用ライブラリーを作成した。得られたシーケンスリードについてはメタゲノム解析専用ソフトウェアQIIMEにより解析を行い、サンプルに含まれる微生物種の構成や多様性、サンプル間の微生物構成の類似性等も調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究についてはおおむね順調に進展したと思われる。サツマイモ立枯病、ネコブセンチュウの発病・非発病土壌を対象に16Sのメタゲノム解析を行った。土壌の種類によっては核酸抽出が極めて困難であったため、抽出キットを複数試すなど試行錯誤が必要であった。16Sメタゲノム解析用ライブラリーの作成やシーケンス、データ解析は順調に進んだと思われる。MiSeqによるシーケンスの結果、V1-V2については合計13,132,254ペアリード、V3-V4については合計20,744,156ペアリードを得た。このうち、各サンプルについて20万(V1-V2)あるいは15万(V3-V4)リードを抽出し、微生物構成を解析した。その結果、異なる試験区間ではその土壌中の微生物構成に違いが見られた一方、試験区内の土壌試料における微生物構成は類似していた。PCoA解析でも試験区内のサンプルの類似性は高く、試験区間では低いことが示された。また、どちらの検定土壌でも発病土壌では非発病土壌よりも微生物の多様性が減少していることが示された。これは病害の発生している土壌では微生物の多様性が低下する、という既存の報告と一致していた。また、同じ病害に感染していても砂質や粘土質など土壌の特性、あるいはマルチ被覆の有無などによって微生物の多様性やその構成は大きく異なっていた。以上のことから、土壌の微生物構成は病害感染の有無だけでなく、様々な環境要因に影響を受けることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定では、二年目からは初年度の16Sメタゲノム解析で得られた結果を基に病害および線虫害の発病・非発病土壌間でその存在比に有意に差のある微生物種を抽出し、これら種の配列を用いたリアルタイムPCRを行うことで、病害程度を診断可能なバイオマーカーを開発する予定であった。しかしながら、初年度の16Sメタゲノム解析の結果から、土壌微生物相は病害の有無だけではなく、様々な環境要因により影響を受けており、バイオマーカーへの利用が期待される微生物種を特定することができなかった。そこで今後は、病気の有無以外の環境要因を排除した、厳密に環境制御された温室でサンプリングを行う予定である。それにより、病害の有無で存在比が異なる種を特定したい。また人為的に病気を引き起こし、時系列にサンプリングすることで、病害の発生に伴い微生物相がどのように変化するかも調査する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初解析用のソフトウェアを購入する予定としていた。しかしながら、それを購入せずとも解析環境を構築することができたため、解析用のソフトウェアを購入する必要がなくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度からの繰り越し分については、実験試薬やキット、あるいは解析用PCの購入に充てたいと考えている。当初予定したよりも、解析サンプル数が格段に増えたため、サンプル調製用のキットや試薬を購入する必要がある。また、解析にはメモリの大きなPCが必要であり、それも新しく購入する予定である。それにより、より効率的な解析が可能となると考えられる。
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