作物栽培時に土壌に施肥される肥料のうち、リンは作物による利用効率が低い。施肥されるリンの多くは土壌中の金属と結合して難溶性無機リンへと変換されるほか、フィチンのような有機態リンとして蓄積される。このようなリンは作物は効率的に利用することができないために、不可給態リンと呼ばれる。本研究では、土壌中の未利用リン資源である不可給態リンを可給態リンへと変換する能力を持つ非共生型細菌である可給態リン供給細菌の作物根圏での定着能の改良を最終目的とした。昨年度までに可給態リン供給細菌野生株にトランスポゾン変異を導入した変異株のスクリーニングを行い、バイオフィルム形成量が増加した変異株の単離を行ってきた。最終年度は作物栽培への実用化に向けて、単離されたいくつかの変異株の特徴化を行った。バイオフィルム形成能が改良された変異株はトランスポゾン変異の導入によるリン可溶化能の低下は見られなかった。様々な作物種子表面での定着能を野生株と比較したところ、バイオフィルム形成能が改良された変異株ではその能力の向上を確認することができた。しかしながら、変異株のいくつかは細胞凝集を示すことや、種子表面での定着能の高さから、希釈平板法で定着した細菌数を計測する方法は妥当でないように思われた。作物種子表面に定着した細菌数を正確に評価する方法を開発する必要があるものの、バイオフィルム形成能の改良は非生物表面(プラスチックやガラス)や生物表面(作物)での定着能の改良に有効であることが示された。
|