本研究の目的は,暴力を生み出す“集団心理”を実証的に解明することであった。人間は暴力を嫌うことが多くの心理学の研究から示唆されているにも関わらず,現実の紛争場面は他者への暴力に溢れている。本来暴力を嫌っている人間が,ある場面で暴力を振るうようになるのは一体なぜなのだろうか。本研究が着目したのは暴力誘発装置としての集団の役割である。集団暴行,集団非行,暴動,いじめ,民族紛争とジェノサイドなど,多くの暴力行動は集団で行われる。本研究では,これらの個別テーマの研究の中で散発的に触れられてきた集団が持つ暴力性に対して,集団過程という視点からの統合的理解を試みる。本課題期間の中では,集団暴力と集団間紛争に関する書籍の執筆と論文投稿を行った。まず,先行研究の理論的レビューを行い,書籍化に向けて原稿の執筆を行ってきた。現在,8割ほどの進捗であり,引続き行っていく。また,投稿論文が学術論文誌「Group Processes & Intergroup Relations」に掲載された。本論文では人類学分野のデータベースを基に統計的な分析を行い,強く粗野な男らしさを重視する名誉の文化を持つ社会では,戦士に社会的報酬が与えられているために,集団間紛争の頻度が高いことを示した。さらに,集団暴力とテロリズムという視点からの考察を深めて,テロリズムの社会心理学に関して日本心理学会のシンポジウムの話題提供を行うとともに,『テロリズムの心理学』という題目の書籍において,分担執筆を行った。
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