研究課題/領域番号 |
16KT0155
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
當眞 千賀子 九州大学, 人間環境学研究院, 教授 (60311148)
|
研究期間 (年度) |
2016-07-19 – 2020-03-31
|
キーワード | 紛争 / 対人葛藤 / 自然観察法 / 保育 / 発達 / いざこざ / トラブル / 文化 |
研究実績の概要 |
本研究は、紛争の原初的形態と考えられる対人葛藤に着目し、保育所を社会のマイクロコズムと捉えて、(A)保育実践のありようと対人葛藤の発生・展開の特徴はどのように関係しているか、また(B)対人葛藤は人の発達過程でどのように発生・展開するかを明らかにすることを目的としている。 2年目であるH29年度は、初年度に実施した方法論的検討を活かし、保育所で未満児組(概ね3歳未満の乳幼児)を中心として、登所からお迎えまでの一日を通したさまざまな生活場面の自然観察的ビデオデータを縦断的に収集した。さらに、一日を通した生活の中のどのような場面で,誰との間に,どのような葛藤が生じるかを把握するために自然観察的ビデオデータを多角的に分析する手法の開発を進めた。 現時点ではまだ最終的な結論を導く段階にはないが、これまでの分析からは、葛藤の特徴と、活動の特徴、個人の特徴、子どもたちの関係性の特徴との間に興味深い関係性が見られている。また、年齢の異なる乳幼児の間で生じる葛藤の発生と展開には、保育所の10年に渡る異年齢をベースとした保育実践との関係を示唆する特徴がみられている。特殊なケースを除くと,年上の子が年下の子との間の葛藤のきっかけを作ることは極めて稀であった。3歳未満という発達初期に、年少者への配慮がうかがえるパターンがみられたことと、異年齢のかかわりを軸とした保育所の文化的な営みとの関係について,今後さらに分析を進める予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
応募時の研究計画書で計上した経費に対し、交付額が約120万円減であったことへの対応として、当初予定していた初年度のパソコンの購入や各年度の大容量のデータストーレージの購入を見送り、謝金を要する分析補助時間数を減らす必要があった。そこで、当初予定していた研究目的に交付額の範囲内で可能な限り応えるために、次のような工夫を織り込んだ。 本研究開始前に蓄積していた6年分のビデオデータの対人葛藤場面をデータベース化する代わりに、本研究で開発した手法を用いて未満児組のビデオデータを新たに縦断的に収集することで、本研究の目的に対してより整合性の高いビデオ記録データを確保し、分析の質と効率を担保する工夫をした。 保育室での自然な生活の流れの中で葛藤場面を同定するためのビデオ記録の取り方について試行を重ねた結果、子どもたちの動きを含めて収録可能なアングルと撮影領域を備えた複数の固定カメラによる長時間の連続撮影が有効であることがわかった。さらに手持ちのビデオカメラを加えることで、音声を含めた葛藤場面の詳細な分析を可能にする水準での録画が可能となった。このことにより、結果的には、日常生活場面での葛藤を把握するという目的にとってより優れたデータの収集と分析が可能になった。
|
今後の研究の推進方策 |
紛争の原初的かたちとしての発達初期の対人葛藤の発生と特徴を理解するには、一日を通した日常生活場面の縦断的観察が重要となるが、そのような先行研究は国内の学会誌掲載論文の検索では見つからず、英文の論文でもまだ見いだせていない。生活場面の観察自体が困難であることもその要因のひとつであると考えられる。このような状況の中で、本研究では貴重なデータの収集が可能になっていることから、まず濃やかに発達初期(0~3歳頃まで)の子どもたちの対人葛藤を把握し理解することが重要であり、それを可能にする新たな分析手法の工夫を重ね続ける必要があると考えている。
|