本研究は、紛争の原初的形態と考えられる対人葛藤に着目し、保育所を社会のマイクロコズムと捉えて、(A)保育実践のありようと対人葛藤の発生・展開の特徴はどのように関係しているか、また(B)対人葛藤は人の発達過程でどのように発生・展開するかを明らかにすることを目的としている。 初年度に自然観察的ビデオ記録の方法論的検討を行い、2年目には未満児組(概ね3歳未満の乳幼児)を中心に、複数の固定ビデオカメラを用いた長時間の連続撮影による生活場面のデータ収集を行うとともに自然な生活の流れの中で生じる葛藤場面を発見的に捉える分析手法を開発した。3年目には、これらの成果を活かして葛藤の特徴を捉える分析手法を開発し分析を進めるとともに、生活場面の縦断的ビデオ記録を収集した。本年度はさらなる縦断的データの収集と分析を行った。 その結果、発達初期の子どもたちの間で生じる葛藤には、これまで着目されていなかった次のような特徴や生起パターンがあることが明らかになった。1)未満児であっても葛藤の性質には関与する者の間の関係性(seniority)が関与していると考えられるものが多数含まれている。2)葛藤の中にはある種の関連性をもって次々と引き起こされ、単発インシデントとしてではなく「連なり」として捉える必要があるものがある。3)葛藤インシデントへの関与頻度が高いケースの中には他者への関心が関係していると考えられるものがある。4)対人葛藤のパターンに縦断的な変化がみられる。 発達初期の日々の集団生活場面で生じる対人葛藤を理解するには、事前に観察の対象や時間を定めて観察するという従来の方法論的制約を超えた、より発見的な観察と分析の手法が有効であることを示す結果が得られた。また、発達初期の葛藤の発生パターンには、保育所の長年に渡る異年齢をベースとした保育実践との関係を示唆する特徴がみられた。
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