遷移状態における水素結合ネットワークの役割を明らかにするとともに、中赤外光照射による遷移状態制御を実現する。初年度に、反応トリガー光、高強度中赤外光、広帯域プローブ光を組み込んだ高感度分光システムの構築、さらに温度制御システムの導入を実施した。2年目以降は、そのシステムを用いて、光受容タンパク質を対象として、中赤外光照射の効果を精密に計測した。中赤外光を1000-1750cm-1の範囲およびタイミングを0-1000psの範囲で変化させながら測定を行った。中赤外照射による明確な信号変化は確認できたが、解析の結果、電子励起状態や反応中間体の寄与ではないことが分かった。最終年度は、反応としてより大きな変化が期待でき、かつ振動モードが明確で選択励起可能な試料へと対象をいったん移しながら、中赤外効果を詳細に検証した。試料としては、光かい離を生じるMn2(CO)10を選択した。この試料は古くから、紫外光による光かい離現象、およびそれに伴う振動モードの変化が調べられている。中赤外光照射によって、紫外光誘起かい離効率の変化を検証した。中赤外光照射による信号変化は観測できたが、解析の結果、モード選択的な結果ではなく、振動緩和に伴う熱の影響である可能性が高いことが分かった。
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